ダコタ戦争

ダコタ戦争：飢餓と絶望が生んだ悲劇

1862年、アメリカ合衆国ミネソタ州で勃発したダコタ戦争は、単なる「戦争」という言葉では捉えきれない複雑な背景を持つ紛争でした。この戦いは、ダコタ・スー族の飢餓と、アメリカ合衆国による条約違反、民族浄化政策が絡み合った悲劇であり、アメリカ先住民史における暗い一面を象徴しています。様々な呼称があり、スー族の反乱、1862年のスー族の暴動、ダコタ紛争などとも呼ばれています。

戦争の背景：条約と裏切り

1851年、ダコタ・スー族はアメリカ合衆国の圧力の下、「トラバース・ド・スー条約」と「メンドータ条約」を締結。これにより、彼らは広大な狩猟地を合衆国に割譲し、ミネソタ川沿いの狭い保留地に押し込められました。この条約で、合衆国はスー族に対し年金（食料）を支給することを約束しましたが、その約束は守られず、年金は遅配や横領が横行し、スー族の生活は困窮を極めました。

狩猟生活を奪われたスー族は、白人から農業を強要され、与えられた煉瓦造りの家も倉庫として使うしかありませんでした。白人商人は彼らの弱みに付け込み、食料を掛け売りし、その代金を合衆国に請求するという不当な行為を行いました。さらに、食料の支給は農業を始めたインディアンが優先されるなど、不公平な扱いが続きました。

1858年には、リトルクロウをはじめとする酋長たちがワシントンD.C.を訪れ、年金の支払いを要求しましたが、合衆国は逆に保留地の北半分を没収し、採石権まで奪いました。合衆国が南北戦争で混乱する中、年金の支払いは完全に停止し、スー族の不満は頂点に達しました。1862年、白人商人は掛け売りを拒否し、ダコタ族は管理官に食料を要求しましたが、交渉は決裂。アンドリュー・ミリックという業者は「草か糞でも食わせておけ」と暴言を吐き、事態をさらに悪化させました。

暴動の勃発

1862年8月17日、ダコタ族の若者たちが白人入植者の卵を盗んだことから口論になり、その勢いで入植者一家を殺害してしまいます。この事件は、長年鬱積していたスー族の不満に火をつけました。リトルクロウ酋長は、白人に勝てないと警告しましたが、戦士たちは白人を追い出すことを決定し、武力蜂起に至ります。8月18日には、南スー族管理局が襲撃され、アンドリュー・ミリックが殺害されました。

スー族はその後も攻勢を続け、ニューアルムの入植地を襲撃。ミネソタ州民兵隊が鎮圧に乗り出しましたが、連敗を喫します。さらに、北のレッド川道沿いの無防備な駅馬車停留所や川の渡し場も襲撃され、多くの白人入植者が命を落としました。アバークロンビー砦では数回にわたって攻撃が行われましたが、撃退されました。

米軍の反撃とダコタ族の降伏

南北戦争で多忙だったエイブラハム・リンカーン大統領は、ミネソタからの度重なる要請を受け、ジョン・ポープ少将にダコタ族の鎮圧を命じました。ポープはスー族を「狂人、野獣」と呼び、皆殺しにする方針を宣言。ミネソタ州知事アレクサンダー・ラムジーも、元州知事ヘンリー・ヘイスティングス・シブレー大佐の協力を得て、鎮圧作戦に乗り出しました。

9月23日、最後の大きな戦闘「ウッドレイクの戦い」で、ダコタ族は決定的な敗北を喫しました。多くの戦士たちが降伏し、捕虜となった白人たちも解放されましたが、その一方で、戦争犯罪人として扱われたダコタ族戦士たちは軍事裁判にかけられることになりました。

軍事裁判と一斉処刑

1862年12月初旬、392人の捕虜が軍事裁判にかけられ、307人が死刑を宣告されました。裁判は非常に短時間で、被告に弁明の機会も与えられませんでした。リンカーン大統領は裁判記録を精査し、39人の死刑を承認しましたが、残りの死刑囚は減刑されました。この判断に、ミネソタ州知事や軍幹部は猛反発しました。

1862年12月26日、ミネソタ州マンケイトで、38人のダコタ族に対する一斉絞首刑が執行されました。この処刑は、アメリカ史上最大規模の集団処刑となり、白人市民の間に衝撃を与えました。処刑後、死体は医者に解剖用として渡され、不当な扱いを受けました。

ダコタ族の追放と民族浄化

リンカーン大統領はダコタ族に部分的な恩赦を与えましたが、ミネソタ州民と議員の反発は強く、ダコタ族への年金支払いは停止され、議会の予算140万ドルは遺族の補償に充てられました。また、残りのダコタ族はイリノイ州ロックアイランドに移送され、4年間収監されました。釈放された時には3分の1が病死し、生存者はネブラスカ州の家族の元へ送還されました。

さらに、暴動に関わりのない女性や子供、老人を含む1700人のダコタ族も収容所に拘留され、劣悪な環境の中で300人以上が命を落としました。1863年4月、米国議会はミネソタのダコタ族保留地を廃止し、以前の条約をすべて無効にしました。ミネソタからダコタ族を追い出すために、彼らの頭皮に賞金が掛けられ、白人による「インディアン狩り」が始まりました。中立を守り、白人に協力したムデワカントン族の一部を除き、ほとんどのダコタ族がミネソタを追放されました。

虐殺のその後

ミネソタ川渓谷は一時的に放棄されましたが、南北戦争が終わると入植が再開されました。スー族の狩猟地は農地に変えられ、かつて先住民が暮らしていた土地は白人社会のものとなっていきました。しかし、ダコタ戦争の記憶は消えることなく、現在もその影響は続いています。

この紛争は、アメリカ先住民と白人入植者の間の根深い対立を浮き彫りにし、アメリカ史における民族浄化の暗い側面を象徴する出来事として、後世に語り継がれています。

記念碑と追悼

ダコタ戦争の犠牲者を弔うために、各地に記念碑が建てられています。アクトン・タウンシップの記念碑は、最初の襲撃で殺害された人々を悼み、ウィルマー近くの墓地にはグリ・エンダーソン記念碑が、ブラウントンには白人家族のための記念碑が建立されています。また、リッジリー砦には戦死した兵士たちを祈念する石碑が建てられています。

マンケイトにある調停公園の記念碑は、処刑された38人のダコタ族を追悼するもので、現在もインディアンたちによるパウワウが開催されています。これらの記念碑は、悲劇を繰り返さないために、歴史を忘れないことの大切さを伝えています。

結論

ダコタ戦争は、アメリカ先住民に対する虐待と民族浄化の象徴的な出来事であり、その悲劇は現代にも教訓として残されています。この歴史を正しく理解し、二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、努力を続ける必要があるでしょう。

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