ダナエ (アルテミジア・ジェンティレスキ)

アルテミジア・ジェンティレスキの『ダナエ』は、バロック期のイタリアで制作された油彩画であり、その帰属と制作年代については議論が続いています。この作品は、ギリシア神話に登場する英雄ペルセウスの母、ダナエの物語を主題としています。

主題

神話によれば、ダナエはアルゴス王アクリシオスの娘として生まれました。アクリシオス王は、自身の孫に殺されるという神託を受けたため、娘のダナエを幽閉し、孫が生まれるのを防ごうとしました。しかし、ゼウス（ローマ神話のユピテル）はダナエに恋をし、黄金の雨に姿を変えて彼女の幽閉された部屋に侵入し、交わります。その後、ダナエはペルセウスを出産。アクリシオスは、ダナエとその息子を箱に入れて海に流してしまいます。成長したペルセウスは、怪物メドゥーサを退治するなどの活躍をしますが、祖父アクリシオスは予言が成就することを恐れて逃亡。最終的に、ペルセウスが円盤投げの競技で誤ってアクリシオスを死なせてしまい、予言は成就することとなりました。

作品

『ダナエ』では、ダナエは衣服を一切身につけず、暗い室内の豪華なベッドの上に横たわっています。画面上部からは、金貨が雨のように降り注ぎ、彼女の身体、特に太腿の間に落ちています。ダナエの右手は金貨を握りしめており、一方で、画面右奥では、召使が布を広げて金貨を集めています。

アルテミジアは、19歳という若さで、金髪、豊かな布地、肌の質感、そして金貨などの様々な質感を巧みに表現しています。カラヴァッジョ風の陰影と、父オラツィオから受け継いだ肌の色調と豊かな表面を描く絵画技術が見事に融合しています。

この作品の構図は、アルテミジアが同時期に描いた『クレオパトラ』に基づいていると考えられています。『クレオパトラ』の構図をほぼそのままに、サイズを縮小した複製画とみなすこともできます。『クレオパトラ』では、横たわる女性が毒蛇を握っているのに対し、『ダナエ』では、金貨が握られている点が異なります。この右手に握られた金貨は、ゼウスとの間に起きた性的な抱擁を暗示しています。

ダナエは通常、誘惑的な女性、あるいは貞淑で純粋な女性として描かれます。しかし、アルテミジアの作品では、金貨を握りしめたダナエの姿を通して、結婚初夜を経験する女性を描いた数少ない例とされています。

召使いの配置とポーズは、ルネサンス期の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオの『ダナエ』からインスピレーションを得ています。さらに、アルテミジアは、裸と着衣の対比を、スカーフで覆われた召使の頭と肩と、ダナエの全裸とを対比させることで、さらに発展させています。また、ダナエの腕に長髪を重ねることで、作品の官能性を最大限に高めています。

帰属

1980年代に発見されたこの作品は、その帰属と制作年代を巡り、研究者の間で活発な議論を呼びました。アルテミジアの作品とするか、父オラツィオの作品とするかで見解が分かれています。サザビーズの競売ではオラツィオの作品として売却されましたが、パトリック・マティーセンがアルテミジアの作品として最初に発表しました。美術史家のベネディクト・ニコルソン、ジャンニ・パピ、ロベルト・コンティーニもアルテミジアの作品と認めています。しかし、シドニー・ジョセフ・フリードバーグ、エーリッヒ・シュライアー、レイモンド・ウォード・ビッセルはオラツィオの作品だと主張しています。ただし、シュライアーは近年、オラツィオ説に疑問を呈しています。メアリー・ガラードは、アルテミジアの娘が『クレオパトラ』の縮小版を制作したことを示唆しています。

支持体

本作品の支持体には銅板が使用されています。アルテミジアが銅板を用いたことは、1621年に作成された彼女の財産目録に3点の銅板画が記載されていることから明らかです。以前は、『ロザリオを持つ聖母子』、『聖アポロニア』、『眠るプットー』の3点がアルテミジアの銅板画として知られていましたが、後者2点は失われています。

来歴

本作は、1986年2月22日にサザビーズ・モナコの競売に初めて登場し、アメリカの美術商ケイト・ガンツによって購入されました。その後、ロンドンのモートン・モーリス＆カンパニー・リミテッドを経て、同年8月1日にセントルイス美術館に収蔵されました。

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