ダニエル・アロミア・ロブレス

ダニエル・アロミア・ロブレスは、19世紀後半から20世紀半ばにかけてペルーで活動した傑出した作曲家であり、音楽学者でもありました。彼の生涯と業績は、ペルー、特にアンデス地域の豊かな音楽文化と深く結びついています。

1871年1月3日、ロブレスはペルー中部の都市ワヌコに生を受けました。彼の両親はフランスからの移民であり、幼少期に一家はペルーの首都リマへと移り住みました。ロブレスは当初、学問の道、特に医学を志し、1892年には国立サンマルコス大学の医学部に進学します。しかし、内なる音楽への強い情熱を抑えきれず、医学の学びを二年間で終え、1894年には音楽家としての道を歩み始めることを決断しました。

音楽の世界に身を投じたロブレスは、作曲活動と並行して、南米各地の、特にアンデス地方に伝わる伝統的な民謡の収集と研究に没頭しました。彼は広範なフィールドワークを行い、これらの地域の音楽が持つ独自の旋律やリズム、構造を丹念に調べ上げました。その研究の集大成として、1910年にはアンデス音楽の根幹をなす旋律構造が五音音階（ペンタトニック・スケール）に基づいていることを論じた論文を発表し、その学術的な価値を明らかにしました。この研究は、彼の作曲活動に深い洞察を与え、ペルーの伝統音楽を現代音楽の中に生かす基盤となりました。

彼のキャリアの中で最も有名な作品は、1913年に作曲されたサルスエラ『コンドルは飛んでいく』（El cóndor pasa）です。サルスエラとは、スペイン語圏で発展した歌とセリフが交錯する音楽劇の形式で、ロブレスはこの形式を用いてアンデスの風景や人々の生活、そして象徴的な鳥であるコンドルを描きました。この作品はリマで初演されるやいなや熱狂的な支持を受け、その後の数十年間にわたり3000回以上もの上演を記録するなど、ペルー国内で異例の成功を収めました。特に劇中で演奏される同名の楽曲「コンドルは飛んでいく」は、その美しくも哀愁を帯びた旋律で多くの人々の心を捉えました。

ロブレスの活動はペルー国内にとどまらず、1919年から1933年までの長期にわたりアメリカ合衆国で過ごしました。この期間中、彼は自身の音楽を演奏する傍ら、ペルーの豊かな音楽文化に関する講演を行うなど、国際的な舞台で精力的に活動しました。これにより、彼の作品やペルーの音楽遺産がアメリカを含む広い地域に紹介される機会が得られました。

アメリカでの滞在を終えペルーに帰国した後、ロブレスは国の文化行政にも深く関わりました。彼は教育省の芸術局長という重要な役職に就き、ペルーの芸術教育や文化振興に貢献し、その経験と知識を次世代に伝えようと尽力しました。

ダニエル・アロミア・ロブレスは1942年6月18日にこの世を去りました。彼の最も著名な作品である『コンドルは飛んでいく』は、没後もその輝きを失わず、特に1960年代後半にポール・サイモンによって再発見され、サイモン＆ガーファンクルの編曲によって世界的な名声を得ました。この出来事は、この楽曲が単なるペルーの伝統音楽にとどまらない普遍的な魅力を持っていることを証明しました。ロブレスは、ペルーの伝統音楽を深く理解し、それを西洋音楽の技法と融合させることで、独自の音楽世界を創造した先駆者として、ペルー音楽史における不朽の足跡を残しました。彼の音楽は、アンデスの魂を歌い上げ、今なお世界中の人々に感動を与え続けています。

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