ダニエル・ウィルデンシュタイン

ダニエル・ウィルデンシュタイン：成功と論争の生涯

ダニエル・ウィルデンシュタイン (1917年 - 2001年) は、世界的に知られた画商であり、絵画史研究家、そして競馬界のオーナーブリーダーとして名を馳せました。フランスのエソンヌ県出身の彼は、ドイツ系ユダヤ人の名家、ウィルデンシュタイン家の後継者として生まれました。この一族は、1875年にナタン・ウィルデンシュタインが設立した絵画販売会社を運営しており、ダニエルは1963年に父ジョルジュからその事業と美術資料館を相続しました。

画商としての成功と研究活動

ダニエルは画商として卓越した才能を発揮し、事業を大きく拡大しました。ロンドン、ニューヨーク、東京など世界の大都市に画廊を展開し、莫大な富を築きました。父や祖父と同様に絵画史の研究にも熱心に取り組み、特に印象派に関する研究は高く評価されています。クロード・モネ、エドゥアール・マネ、ポール・ゴーギャンなど、多くの巨匠の作品のカタログ・レゾネ（作品総目録）を作成し、独自の「ウィルデンシュタイン作品番号」という分類システムも開発しました。さらに、現代美術にも造詣が深く、1993年にはアーネ・グリムシャーとの協力により、ボストンに現代美術の博物館「ペースウィルデンシュタイン」を開設しました。現在、同美術館はニューヨークに移転し、北京にも支館を構えています。

論争と影の部分

ウィルデンシュタイン家の歴史は、成功と同時に数々の論争も伴っていました。第二次世界大戦後、パリに画廊を再開したウィルデンシュタイン家は、フランスの文化大臣アンドレ・マルローから公然と糾弾されました。ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの絵画『女占い師』の国外持ち出しと販売に絡む贈賄疑惑が持ち上がり、1960年代初頭に営業を停止せざるを得なくなりました。この事件は訴追されませんでしたが、ダニエルは後にマルローの糾弾を悪意によるものだったと主張しました。

さらに近年、第二次世界大戦中のナチスによる略奪美術品への関与や、ジョルジュとナチス政権との関係が大きな論争を巻き起こしました。2000年、パリで関連訴訟が結審し、ウィルデンシュタイン側は敗訴しました。美術史家エクトール・フェリシアーノの著書『ナチの絵画略奪作戦』では、ジョルジュが戦時中もナチスを顧客として巨額の利益を得ていたと主張されており、ウィルデンシュタイン家はこの記述に対して名誉毀損で訴訟を起こしましたが、敗訴しています。

2011年には、ダニエルの息子ガイが、行方不明または盗難品の美術品の隠匿容疑でフランス当局に告発されました。ウィルデンシュタイン資料館から押収された30点の美術品の中には、もともとヨセフ・ライナッハのコレクションの一部だったとされる作品が含まれており、ダニエルがライナッハの娘の遺産執行人を務めていたことから、相続問題と絡んだ複雑な争いが発生しました。

競馬界での活躍と激しい人間関係

ウィルデンシュタインはヨーロッパ競馬界でも重要な人物でした。数々の名馬を所有・生産し、多くの競走で勝利を収めました。しかし、騎手や調教師との間で激しい対立を繰り返したことも知られており、イギリスの競馬関係者との間には多くの軋轢がありました。ロイヤルブルーとライトブルーの勝負服で知られ、フランスで成功を収めた後、イギリスの競馬界にも進出しましたが、調教師や騎手との関係が悪化し、馬をフランスの厩舎に移したり、騎手を交代させるなど、激しい対立を繰り返しました。

ウィルデンシュタイン家の遺産

ウィルデンシュタイン一族は当初家畜商でしたが、ナタンが1871年にパリに移り住んで美術商に転身しました。一族の莫大な富は膨大なコレクションを基盤としていますが、その財産管理には秘密主義が貫かれていました。ダニエルにはアレクとガイの二人の息子がいましたが、ダニエルは晩年まで事業を指揮し、遺産は孫に引き継がれるようにしました。アレクと最初の妻ジョセリンの離婚騒動は、マスコミの注目を集め、ウィルデンシュタイン家の存在を世に知らしめることとなりました。この騒動によって、一族の不正な税対策やナチスとの関係といった、これまで隠蔽されていた事実が明るみに出ました。

ダニエル・ウィルデンシュタインは、画商、研究家、オーナーブリーダーとして華々しい成功を収めた一方、ナチスとの関係や相続問題など、複雑な影の部分も持ち合わせていました。彼の生涯は、成功と論争が複雑に絡み合った、非常に興味深いものです。

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