ダニエル・ベンサイド

ダニエル・ベンサイド：革命を生き、思考し続けたマルクス主義者

ダニエル・ベンサイド（1946年3月25日 - 2010年1月12日）は、フランスのマルクス主義哲学者、評論家、そして教育者でした。彼は1968年の五月革命において、ナンテール大学を拠点とする学生運動を主導し、その後のフランスにおける左派運動に大きな影響を与えました。

生い立ちと背景

ベンサイドは、フランス南西部のトゥールーズで生まれました。彼の家族は、労働者階級とユダヤ系のルーツを持ち、政治的な活動家を輩出していました。父方の祖父はパリ・コミューンの支持者であり、叔父は共産主義インターナショナルのフランス支部（SFIO）の党員であったため、第二次世界大戦中に強制収容所で亡くなりました。両親はカフェ「バール・デザミ（友のバー）」を経営し、そこはスペインからの難民や反ファシズムのイタリア人移民労働者、ポルトガルの職人、郵便局員や鉄道員、商人などが集まる大衆的なカフェで、共産主義者の拠点でもありました。

教育と政治活動の開始

ベンサイドは、リセ・ベルヴィルを経て、リセ・ピエール・ド・フェルマーのグランゼコール準備級に進学しました。その後、サン＝クルー高等師範学校（現リヨン高等師範学校）で哲学を専攻し、ナンテール大学でマルクス主義社会学者アンリ・ルフェーヴルに師事しました。アルジェリア戦争中の地下鉄シャロンヌ駅事件を契機に共産主義青年（Jeunesse communiste）に加盟し、政治活動を開始しました。

五月革命における役割

1968年、ナンテール大学で革命的共産主義青年（JCR）を結成し、学生運動を主導しました。アメリカ帝国主義に反対する活動家らがアメリカン・エキスプレスのパリ支店を攻撃した事件をきっかけに、大学内で抗議運動が起こり、学部長の会議室を占拠しました。この運動は、ソルボンヌ大学構内での学生と憲兵隊の衝突を招き、五月革命へと発展しました。

ベンサイドは、この一連の出来事を『五月革命 - ゲネプロ（通し稽古）』として著し、革命の精神を「帝国主義の力を分散させるための反帝国主義運動」と捉えました。彼は、五月革命を反帝国主義・反資本主義革命への序曲と位置づけ、世界中の青年に大きな衝撃を与えました。

革命的共産主義者同盟（LCR）

五月革命後、ベンサイドは革命的共産主義青年を解散し、第四インターナショナルのフランス支部として共産主義同盟を結成しました。しかし、極右との衝突により共産主義同盟は解体され、その後、革命的共産主義者同盟（LCR）として再出発しました。

1973年、チリの社会主義政権がクーデターによって倒された事件や、アルゼンチンでの左翼ゲリラの拷問・殺害事件を目の当たりにし、ベンサイドは武装闘争の限界を認識しました。1981年から86年まで第四インターナショナルの国際執行委員会の委員を務め、ブラジルではルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァの労働者党（PT）の誕生に貢献しました。

執筆・編集活動と教育・研究活動

ベンサイドは、執筆・編集活動にも力を入れ、『ルージュ（赤）』紙の編集長を務めたほか、『アンプルコール』、『人間と社会』、『政治経済批評』など、国内外の左派雑誌に寄稿しました。また、テクスチュアル出版社の評論叢書「ラ・ディスコルド（不和）」の編集長を務めました。

教育活動においては、ヴァンセンヌ大学（後のパリ第8大学）で哲学を教え、ミシェル・フーコーやジル・ドゥルーズらとともに新しい哲学の試みに挑戦しました。マルクス研究においては、教条主義的マルクス主義に対抗し、ヴァルター・ベンヤミン、オーギュスト・ブランキ、シャルル・ペギー、ジョルジュ・ソレル、ベルナール・ラザールの思想を手がかりに、時と歴史の概念を捉え直しました。

晩年と遺産

1990年に病に倒れたベンサイドは、研究活動と著書の執筆に専念しました。彼は、「時勢に抗するための協会（Sprat）」や「ルイーズ・ミシェル協会」を創設し、過去を継承することの重要性を訴えました。2010年1月12日、パリで死去。彼の思想と活動は、現代の左派運動に大きな影響を与え続けています。

主要著作

『五月革命 - ゲネプロ（通し稽古）』（1968年）
『時ならぬマルクス - 批判的冒険の偉大さと逆境（十九―二十世紀）』（1995年）
『新しいインターナショナリズムの胎動 - 帝国の戦争と地球の私有化に対抗して』（2003年）
『はやる心でゆっくりと』（2004年）

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