ダニエル・ヴィエルジュ
ダニエル・ヴィエルジュ（本名：ダニエル・ウラビエタ・ヴィエルジュ）は、1851年3月5日にスペインの首都マドリードに生を受け、後にフランスのパリを主な活動拠点とした画家、製図工、そして優れたイラストレーターです。製図工であった父ビセンテ・ウラビエタと、フランス出身の母フアナ・ヴィエルジュ・デ・ラ・ベガの間に、マドリードで第一子として生まれました。彼の弟サムエル・ウラビエタもまた画家として活動しました。
少年期にあたる1864年には、マドリードにある王立サン・フェルナンド美術アカデミーに入学し、フェデリコ・デ・マドラーソのもとで絵画や製図の基礎を学びました。1869年頃、家族とともにパリへと移り住みますが、翌年に普仏戦争が勃発したため、家族は一時的にスペインへ戻ることになりました。
ヴィエルジュ自身はパリに留まり、1870年には当時有力な図版入り新聞であった『ル・モンド・イリュストレ』で仕事を得ます。同年9月17日号に初めて彼のイラストが掲載され、画家・イラストレーターとしての第一歩を踏み出しました。彼は作品に自身の姓であるウラビエタではなく、母方の姓でありセカンドネームでもあった「VIERGE」と署名しました。これは、フランスの人々にとって覚えやすい名前であると同時に、同業の父ヴィセンテ・ウラビエタの作品と混同されるのを避けるための配慮であったと言われています。
彼は版画家のエドモン・モランの作品に影響を受けました。1871年のパリ・コミューンの際には、ギュスターヴ・フルーランスやロワール・リゴーといった革命指導者たちの肖像や、緊迫した街の様子を多数描いています。パリ・コミューン終結後、ヴィエルジュは版画家のアメデ・ドーデナルデと共同で、スペインで起こった第三次カルリスタ戦争に関するルポルタージュ風のイラストシリーズを多数制作しました。彼はまた、自らのスケッチだけでなく、父ヴィセンテや海外に派遣されたリュック＝オリヴィエ・メルソンなど、他のイラストレーターから送られてくるスケッチをもとに、新聞掲載用の版下を作成する仕事も精力的にこなしました。
1870年代に入ると、ヴィエルジュの筆はさらに円熟味を増し、『スペインのクリスマス』、『トラファルガー広場での共和党集会』、『アンダルシアでの列車への攻撃』、『パレルモでのサンタ・ロサリアの饗宴』など、彼の初期の代表作とされる力強い描写の作品が次々と生み出されていきました。これらの作品は、故郷スペインの情景や、当時のヨーロッパ各地の出来事を鮮やかに捉えています。
1879年、ヴィエルジュは長年活動した『ル・モンド・イリュストレ』を離れ、新しい図版入り雑誌『ラヴィ・モデルヌ』の創刊に尽力します。翌1880年には画家のマルティン・リコとともに故郷スペインへと旅し、ガリシアやカスティーリャ地方の自然や人々の営みを丹念にスケッチしました。
しかし、創作活動の絶頂期にあった1882年2月14日、ヴィエルジュは突然脳卒中に倒れてしまいます。この病は彼の右半身に重い麻痺をもたらし、言葉を話すことや記憶にも影響を与えました。しかし、妻クララの献身的な看護と不屈の精神により、彼は部分的な回復を遂げ、驚くべきことに、それまで使っていなかった左手で絵を描く技術を一から学び直し、再び創作活動への道を歩み始めました。
病からの復帰後、ヴィエルジュは特に本の挿絵の分野で目覚ましい才能を発揮するようになります。1882年に発表されたフランシスコ・デ・ケベードの小説『詐欺師ドン・パブロスの生涯』のために制作した挿絵は、当時最新技術であった写真版画の技法を駆使した精緻なものであり、大きな注目を集めました。彼の挿絵家としての名声を不動のものとしたのは、ヴィクトル・ユーゴーの不朽の名作『レ・ミゼラブル』（1882年版）と、ミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』でした。『ドン・キホーテ』の挿絵制作にあたっては、彼は1893年に画家のカルロス・ヴァスケスとともにスペインのラ・マンチャ地方を実際に旅し、作品の舞台となったアルガマシージャ・デ・アルバやアルカサル・デ・サン・フアン、カンポ・デ・クリプターナといった地で綿密なスケッチを行いました。この取材に基づき描かれた挿絵は、そのリアリティと生命力で多くの版に採用され、今日でも高く評価されています。
しかし、ヴィエルジュの挿絵作品の中で、後世最も重要と評されるのは、歴史家ジュール・ミシュレの記念碑的な著作『フランス史』の挿絵です。この壮大なプロジェクトは全26巻に及び、ヴィエルジュは各巻のために合計でおよそ1000点にも及ぶ膨大な数のドローイングを提供しました。彼の挿絵は、ミシュレの歴史叙述に視覚的な深みを与え、読者をフランスの歴史世界へと引き込みました。
その才能は国際的にも認められ、1889年9月29日にはパリ万国博覧会で初めてメダルを獲得しました。1898年には、彼の描いた『ドン・キホーテ』の挿絵がパリのアール・ヌーボー・ギャラリーで展示され、高い評価を得ました。同年には木版画の復興を目指す雑誌『イマージュ』にも寄稿するなど、新しい動きにも関心を示しています。そして、1900年に開催されたパリ万国博覧会では、見事にグランプリを受賞し、その栄誉を確固たるものとしました。
晩年、彼は最愛の母を失います。1904年4月2日、母フアナがパリで死去しました。そのわずか一ヶ月後の5月10日、ダニエル・ヴィエルジュ自身もブローニュ＝ビヤンクールで生涯を閉じました。彼の遺体は、多くの芸術家が眠るパリのモンパルナス墓地に静かに埋葬されました。困難を乗り越え、左手一本で歴史に残る挿絵を数多く生み出したヴィエルジュは、「近代イラストレーションの父」とも称され、その功績は今日でも高く評価されています。
少年期にあたる1864年には、マドリードにある王立サン・フェルナンド美術アカデミーに入学し、フェデリコ・デ・マドラーソのもとで絵画や製図の基礎を学びました。1869年頃、家族とともにパリへと移り住みますが、翌年に普仏戦争が勃発したため、家族は一時的にスペインへ戻ることになりました。
ヴィエルジュ自身はパリに留まり、1870年には当時有力な図版入り新聞であった『ル・モンド・イリュストレ』で仕事を得ます。同年9月17日号に初めて彼のイラストが掲載され、画家・イラストレーターとしての第一歩を踏み出しました。彼は作品に自身の姓であるウラビエタではなく、母方の姓でありセカンドネームでもあった「VIERGE」と署名しました。これは、フランスの人々にとって覚えやすい名前であると同時に、同業の父ヴィセンテ・ウラビエタの作品と混同されるのを避けるための配慮であったと言われています。
彼は版画家のエドモン・モランの作品に影響を受けました。1871年のパリ・コミューンの際には、ギュスターヴ・フルーランスやロワール・リゴーといった革命指導者たちの肖像や、緊迫した街の様子を多数描いています。パリ・コミューン終結後、ヴィエルジュは版画家のアメデ・ドーデナルデと共同で、スペインで起こった第三次カルリスタ戦争に関するルポルタージュ風のイラストシリーズを多数制作しました。彼はまた、自らのスケッチだけでなく、父ヴィセンテや海外に派遣されたリュック＝オリヴィエ・メルソンなど、他のイラストレーターから送られてくるスケッチをもとに、新聞掲載用の版下を作成する仕事も精力的にこなしました。
1870年代に入ると、ヴィエルジュの筆はさらに円熟味を増し、『スペインのクリスマス』、『トラファルガー広場での共和党集会』、『アンダルシアでの列車への攻撃』、『パレルモでのサンタ・ロサリアの饗宴』など、彼の初期の代表作とされる力強い描写の作品が次々と生み出されていきました。これらの作品は、故郷スペインの情景や、当時のヨーロッパ各地の出来事を鮮やかに捉えています。
1879年、ヴィエルジュは長年活動した『ル・モンド・イリュストレ』を離れ、新しい図版入り雑誌『ラヴィ・モデルヌ』の創刊に尽力します。翌1880年には画家のマルティン・リコとともに故郷スペインへと旅し、ガリシアやカスティーリャ地方の自然や人々の営みを丹念にスケッチしました。
しかし、創作活動の絶頂期にあった1882年2月14日、ヴィエルジュは突然脳卒中に倒れてしまいます。この病は彼の右半身に重い麻痺をもたらし、言葉を話すことや記憶にも影響を与えました。しかし、妻クララの献身的な看護と不屈の精神により、彼は部分的な回復を遂げ、驚くべきことに、それまで使っていなかった左手で絵を描く技術を一から学び直し、再び創作活動への道を歩み始めました。
病からの復帰後、ヴィエルジュは特に本の挿絵の分野で目覚ましい才能を発揮するようになります。1882年に発表されたフランシスコ・デ・ケベードの小説『詐欺師ドン・パブロスの生涯』のために制作した挿絵は、当時最新技術であった写真版画の技法を駆使した精緻なものであり、大きな注目を集めました。彼の挿絵家としての名声を不動のものとしたのは、ヴィクトル・ユーゴーの不朽の名作『レ・ミゼラブル』（1882年版）と、ミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』でした。『ドン・キホーテ』の挿絵制作にあたっては、彼は1893年に画家のカルロス・ヴァスケスとともにスペインのラ・マンチャ地方を実際に旅し、作品の舞台となったアルガマシージャ・デ・アルバやアルカサル・デ・サン・フアン、カンポ・デ・クリプターナといった地で綿密なスケッチを行いました。この取材に基づき描かれた挿絵は、そのリアリティと生命力で多くの版に採用され、今日でも高く評価されています。
しかし、ヴィエルジュの挿絵作品の中で、後世最も重要と評されるのは、歴史家ジュール・ミシュレの記念碑的な著作『フランス史』の挿絵です。この壮大なプロジェクトは全26巻に及び、ヴィエルジュは各巻のために合計でおよそ1000点にも及ぶ膨大な数のドローイングを提供しました。彼の挿絵は、ミシュレの歴史叙述に視覚的な深みを与え、読者をフランスの歴史世界へと引き込みました。
その才能は国際的にも認められ、1889年9月29日にはパリ万国博覧会で初めてメダルを獲得しました。1898年には、彼の描いた『ドン・キホーテ』の挿絵がパリのアール・ヌーボー・ギャラリーで展示され、高い評価を得ました。同年には木版画の復興を目指す雑誌『イマージュ』にも寄稿するなど、新しい動きにも関心を示しています。そして、1900年に開催されたパリ万国博覧会では、見事にグランプリを受賞し、その栄誉を確固たるものとしました。
晩年、彼は最愛の母を失います。1904年4月2日、母フアナがパリで死去しました。そのわずか一ヶ月後の5月10日、ダニエル・ヴィエルジュ自身もブローニュ＝ビヤンクールで生涯を閉じました。彼の遺体は、多くの芸術家が眠るパリのモンパルナス墓地に静かに埋葬されました。困難を乗り越え、左手一本で歴史に残る挿絵を数多く生み出したヴィエルジュは、「近代イラストレーションの父」とも称され、その功績は今日でも高く評価されています。
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