ダメージコントロール手術

ダメージコントロール手術（Damage Control Surgery: DCS）とは

ダメージコントロール手術（DCS）は、重症外傷患者に対する外科的治療戦略の一つです。特に、外傷による死亡原因の三徴候（代謝性アシドーシス、血液凝固障害、低体温）が同時に発生している、またはその危険性が高い場合に適用されます。

DCSの必要性

重症外傷患者に対して、大規模で時間のかかる根治手術を最初から行うことは、患者にとって大きな負担となり、かえって生命を危険にさらす可能性があります。これは、重症外傷によって生じた生理学的異常（上記の三徴候）が手術の侵襲によってさらに悪化するリスクがあるためです。

そこで、DCSでは、まず患者の生命を維持するために必要な処置を最優先で行います。具体的には、呼吸や循環を安定させるための処置（気道確保、出血コントロールなど）を優先し、それ以外の損傷部位に対する本格的な手術は、患者の状態が安定してから、段階的に行うという戦略をとります。

DCSの具体的な手順

DCSの初回手術では、損傷部位の根治的な治療は行いません。開胸・開腹手術の場合、出血を一時的に止めるためのガーゼパッキングや、単純結紮などの簡易的な止血処置を行います。また、汚染された組織を可能な限り除去するなど、感染を最小限に抑えるための処置も行われます。

腹腔内圧が異常に高くなり、腹部の閉鎖が困難な場合には、輸液用フィルムバッグを用いた一時的な閉腹（silo closure）も検討されます。これは、腹部の圧迫を緩和し、呼吸や循環機能の悪化を防ぐための措置です。

DCSの二期的手術

初回手術で患者の状態が安定した後、二期的手術として本格的な根治手術を行います。この段階で、損傷部位の修復や再建を行います。DCSは、患者の状態を慎重に見極めながら段階的に治療を進めるため、患者の負担を軽減し、救命率の向上に貢献します。

三次救急医療機関でのDCS

多くの三次救急医療機関では、多発外傷患者の救命のために、DCSの概念に基づいた治療戦略を積極的に活用しています。DCSは、患者の生理学的状態を考慮しながら、適切なタイミングで必要な処置を行うことで、重症外傷患者の予後改善に大きく貢献しています。

まとめ

ダメージコントロール手術は、重症外傷患者に対する重要な治療戦略であり、生命維持を最優先とする考え方に基づいています。初回手術での簡易的な処置と二期的手術を組み合わせることで、患者の負担を軽減し、救命率の向上を目指します。この戦略は、特に多発外傷患者の治療において、非常に重要な役割を果たしています。

参考文献

• - 吉野篤人「damage control surgery（DCS），およびplanned reoperation [外傷処置]」『今日の治療指針　2011年版』医学書院、2011年。ISBN 978-4-260-01105-1。

関連事項

• - 応急処置
• - RICEの法則
• - ペインコントロール

もう一度検索