ダラパティ 踊るゴッドファーザー

『ダラパティ　踊るゴッドファーザー』（原題：Thalapathi）は、1991年に公開されたインドの犯罪映画であり、インド映画史に燦然と輝く金字塔の一つです。マニラトナム監督による卓越した演出、ラジニカーント、マンムーティら豪華俳優陣の熱演、そしてイライヤラージャ作曲による名曲の数々が織りなす、感動と興奮に満ちた作品となっています。

物語は、インド叙事詩『マハーバーラタ』を下敷きにした、友情と運命の物語です。ラジニカーント演じるスーリヤと、マンムーティ演じるデーヴァラージの深く複雑な友情を中心に、様々な人間模様が鮮やかに描かれています。スーリヤとデーヴァラージは、まるでカルナとドゥルヨーダナの現代版のようです。彼らの関係は、時に葛藤し、時に支え合い、最終的には避けられない悲劇へと導かれていきます。

本作のキャスティングは、まさに豪華絢爛。ラジニカーントとマンムーティという、インド映画界を代表する二大スターの共演は、それだけで話題を集めるに十分でした。さらに、ショーバナ、アルヴィンド・スワーミ、アムリーシュ・プリーなど、実力派俳優たちが脇を固め、作品に深みを与えています。特に、本作が俳優デビュー作となったアルヴィンド・スワーミの演技は高く評価されており、将来への期待感を感じさせました。当初アルジュン役に予定されていたジャヤラームのスケジュールの都合で出演が叶わなかったことや、青年期のスーリヤ役の俳優のシーンがカットされたことなど、撮影の裏側には様々なエピソードがありました。マラヤーラム語映画出身のマノージュ・K・ジャヤンのタミル語映画デビュー作でもあった本作は、様々な才能が集結した作品と言えるでしょう。

マニラトナム監督は、本作において、現実的なラジニカーント像を描くことを目指しました。彼の過去の代表作『Mullum Malarum』での演技を参考に、ラジニカーントの新たな一面を引き出そうとしたのです。撮影は監督のこだわりが随所に感じられるものでした。白黒で始まる導入部、スーリヤの父親に関する描写の省略など、監督の意図が綿密に練られた演出が光ります。カルナータカ州のメルコート、チェンナケーシャヴァ寺院などでのロケーション撮影も、作品に独特の雰囲気を与えています。

音楽を担当したのは、イライヤラージャ。本作は、彼にとって最後のラトナム作品となりました。驚くべきことに、イライヤラージャは音楽の作曲に「半日」しかかけなかったと言われています。その短時間で作られた音楽は、映画に彩りを添え、観客の心を揺さぶる名曲揃い。その人気は凄まじく、4言語のレコードが1000万枚以上も販売されるという驚異的な記録を残しました。音楽アルバムは、ガーディアン紙の「死ぬ前に聴くべきアルバム1000」にも選出されています。「Rakkamma Kaiya Thattu」はBBCの「ワールド・トップテン・ポピュラーソング・オールタイム」で4位にランクインするなど、その人気はインドの枠を超えて世界中に広がっています。

公開された1991年はディワーリーの時期であり、本作は興行的な大成功を収めました。批評家からも高い評価を受け、数々の賞を受賞しています。フィルムフェア賞南インド映画部門では、マニラトナム監督が監督賞、イライヤラージャが音楽監督賞を受賞しました。

その後も本作の影響は絶大で、C・S・アムダン監督の『Thamizh Padam』、アトリー監督の作品、カールティク・スッバラージ監督の『Jigarthanda』など、数々の作品にオマージュとして本作が取り上げられています。ラジニカーントの娘であるサウンダリヤー・ラジニカーントも、本作の公開初日を鮮明に覚えていると語っており、彼女が製作した『Kochadaiiyaan』では、ラジニカーントの髪型を本作のスーリヤをイメージしたものにしています。

『ダラパティ　踊るゴッドファーザー』は、豪華キャスト、優れた演出、名曲の数々、そして感動的なストーリーが三位一体となった、まさにインド映画の金字塔と言える傑作です。インド映画ファンのみならず、全ての映画ファンに強くおすすめしたい一作です。

もう一度検索