マラヤーラム語映画

マラヤーラム語映画産業：インドの映画史を彩る「モリウッド」の軌跡

インド南部のケーララ州を拠点とするマラヤーラム語映画産業は、「モリウッド」の愛称で知られ、インド国内で4番目の規模を誇る一大エンターテインメント産業です。本稿では、サイレント映画時代から現代に至るまで、その歴史、発展、そして国際的な成功を支えた人々や作品について掘り下げて解説します。

黎明期：揺籃から発展への第一歩

マラヤーラム語映画の歴史は、1930年の『Vigathakumaran』の公開に始まります。J・C・ダニエルによるこの作品は、興行的成功には至らなかったものの、ケーララ州における映画制作の礎を築きました。その後、1938年には初のトーキー映画『Balan』が公開されるなど、徐々に映画制作は活況を呈し始めます。初期の製作拠点はティルヴァナンタプラムでしたが、後にマドラス（現チェンナイ）に移り、1980年代後半には再びケーララ州へ回帰します。現在では、ティルヴァナンタプラムとコーチが主要な製作拠点となっています。

1947年以前は製作本数が限られていましたが、ケーララ州政府の財政支援政策により、1950年代以降は年間製作本数が飛躍的に増加。1980年代には年間127本もの作品が製作されるまでに発展しました。

黄金時代：リアリズムと社会性の融合

1950年代後半以降、マラヤーラム語映画は社会問題をテーマに、文学や演劇、政治を融合させた作品を数多く発表しました。1954年の『Neelakuyil』は、国家映画賞を受賞した最初の作品となり、マラヤーラム語映画の新たな地平を切り開きました。

1960年代～70年代にかけては、ラーム・カリアットやP・バースカランといった名匠が活躍し、『Chemmeen』などの傑作が誕生しました。この時代は、カースト制度や階級格差、反啓蒙主義といった社会問題をリアルに描く作品が主流となり、ナショナリズムと社会主義思想が強く反映されていました。

同時に、イタリア・フランスのヌーヴェルヴァーグの影響を受けた「パラレルシネマ」と呼ばれる新しい潮流が台頭し、アドゥール・ゴーパーラクリシュナンやゴーヴィンダン・アラヴィンダンらによる芸術性の高い作品が国際的な評価を獲得しました。

スターの時代と進化

1980年代以降は、モーハンラールとマンムーティという二大スターの活躍により、マラヤーラム語映画は黄金時代を迎えました。彼らは数々の名作に出演し、国内のみならず海外でも高い人気を獲得しました。

この時代には、プリヤダルシャンやシッディーキー＝ラールなど、多くの新進気鋭の監督たちが登場し、ユーモアと憂鬱さを併せ持つ独特の作風が確立されました。また、シャジ・N・カルンの『Piravi』は、カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞するなど、国際的な舞台でも高い評価を得ました。

1990年代には、商業映画と芸術映画の垣根を越えた多様な作品が制作され、アカデミー外国語映画賞のインド代表作品に選出された作品も複数登場しました。

停滞と再生：ニュー・ジェネレーションの台頭

2000年代に入ると、マラヤーラム語映画は一時的な停滞を経験しますが、2010年代には「ニュー・ジェネレーション映画」と呼ばれる新しい潮流が生まれました。新鮮な題材と高度な技術を駆使したこれらの作品は、過去の栄光を取り戻すだけでなく、新たなファン層を獲得し、業界を活性化させました。

『Drishyam』や『Pulimurugan』といった大ヒット作は、興行収入においても過去最高の記録を樹立し、マラヤーラム語映画の再生を象徴する作品となりました。

人材：才能の集積と継承

マラヤーラム語映画の発展には、多くの才能ある人材の貢献が不可欠でした。監督、俳優、作曲家、作詞家、撮影監督など、それぞれの分野で多くの才能が花開き、独自のスタイルを確立しました。

特に音楽は、初期のタミル語やヒンディー語音楽からの模倣から脱却し、独自のマラヤーラム語音楽が発展しました。K・J・イエースダースやK・S・チトラといった伝説的な歌手は、マラヤーラム語映画音楽に大きな影響を与え、現在もその音楽はケーララの人々の生活に深く根付いています。

未来への展望

現在も、革新的な試みと伝統の融合を続けるマラヤーラム語映画。その多様な作品群は、インド映画史における重要な一翼を担っており、これからも世界中の人々を魅了し続けることでしょう。

もう一度検索