ダルダノ・サッケッティ

イタリアを代表する映画脚本家ダルダノ・サッケッティは、1944年7月27日にモリーゼ州モンテネーロ・ディ・ビザッチャで誕生しました。幼い頃から映画や文学、特に推理小説に深く親しみ、後の脚本家としての基盤を築きます。政治的な関心も高く、若い頃から一貫して左翼的な立場を貫きました。

彼のキャリアは、1969年にダリオ・アルジェントと出会ったことから始まります。アルジェントの新作『わたしは目撃者』（1970年）の原案を執筆しますが、完成後の脚本クレジットを巡ってアルジェントと対立。この騒動がきっかけでプロデューサーの目に留まり、マリオ・バーヴァ監督の『血みどろの入江』（1971年）の原案執筆を依頼されます。本作はイタリアスプラッター映画の先駆けとなり、サッケッティの名を確立しました。

1972年に結婚した妻エリザ・ブリガンティは、心理学と文学の博士号を持ち、後にサッケッティの脚本執筆に協力するようになります。キャリア初期にはアルジェントの別企画や、ディノ・デ・ラウレンティスとの専属契約による活動空白期間、徴兵中にクレジットなしで脚本修正を手掛けるなどの経験を積みました。

その後、刑事アクション映画分野で手腕を発揮し、特にウンベルト・レンツィ監督による「モンネッツァ」シリーズなどで知られるようになります。彼のキャリアにおいて最も重要な転機となったのは、ルチオ・フルチ監督との協業です。『ザ・サイキック』（1977年）での協力を経て信頼関係を築き、『サンゲリア』（1979年）で空前の成功を収めます。サッケッティは、『サンゲリア』の成功は、ゾンビ映画にジャッロの手法を取り入れたことで、ミステリー演出を得意とするフルチ監督の持ち味を引き出せたことにあると分析。脚本クレジットには妻エリザの名前のみが記されていますが、これには税務上の理由や過去の契約が関わっていました。

『サンゲリア』の成功後、サッケッティとフルチはイタリアンホラーの金字塔となる作品群を次々と世に送り出します。『地獄の門』（1980年）、『ビヨンド』（1980年）、『墓地裏の家』（1981年）など、その多くでサッケッティが脚本を担当しました。フルチがアイデアを提供し、サッケッティが物語を構築するというスタイルで、サッケッティはフルチの脚本を読む力と弱点を見抜く能力を高く評価しています。しかし、この関係も長くは続かず、『未来都市ローマ』（1983年）以降協力は途絶え、TV映画『アンティル・デス』（1988年）の脚本を巡るトラブルで絶縁状態に陥り、1996年の和解まで確執が続きました。

サッケッティはキャリアを通じて、アルジェントやマリオ、ランベルト両バーヴァといったイタリア映画界の主要人物たちと協業しますが、脚本クレジットや企画の進め方を巡る摩擦が頻繁に発生しました。『デモンズ』（1985年）シリーズはその典型で、原案を提供しながらもクレジット表記や脚本内容の変更で複雑な状況が生じました。アメリカでのキャリアを試みた時期もありましたが、『悪魔の棲む家PART2』（1982年）への関与がクレジットされずに終わるなど失敗に終わります。

1980年代後半以降はランベルト・バーヴァ作品や、『カラテキッド』シリーズのようなアクション映画も手がけました。1996年にはアルジェント、フルチと和解しますが、新たな企画を巡って再びアルジェントと絶縁するなど、関係は最後まで波乱に満ちていました。1990年代以降はイタリア娯楽映画の衰退に伴いTV脚本家へ転身し、2013年の作品を最後に脚本家から引退しました。引退理由には、若手への道譲りと現代イタリア映画への失望を挙げ、現在の業界は才能より従順さを求めると厳しい見方を示しています。映画というメディアの未来そのものについても悲観的な見通しを語り、その波乱に富んだキャリアに幕を下ろしました。

イタリアンホラー・サスペンス映画史において、巨匠たちの傍らで数々の名作を生み出したサッケッティは、その独自の視点と波乱の人生をもって、今なお語り継がれる重要な人物です。

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