ルチオ・フルチ

ルチオ・フルチ（1927年6月17日 - 1996年3月13日）は、イタリアのローマで生まれた映画監督であり脚本家です。主にホラーやスプラッターといったジャンルで異彩を放ち、その強烈な表現で知られます。

幼少期をローマのトラステヴェレ地区で過ごし、敬虔なカトリック教徒だった両親、特に母親は彼が弁護士になることを強く望んでいました。国立の寄宿学校を経て海軍学校にも通い、青少年サッカーチームではゴールキーパーを務めるなど、映画とは縁遠い学生時代を送りました。その後ローマに戻り、高校に再入学した頃に映画への関心を持ち始めましたが、母親の希望により一度は医学部に進学します。しかし、興味を持てなかったことから文学部哲学科に転じ、最終的に学位を取得しました。

映画界への道は、偶然の出来事から開かれました。失恋で落ち込みながら乗った電車で、新聞広告の「国立映画実験センター再開」の文字を目にし、衝動的に受験を決意します。最終試験での面接官の中にいたルキノ・ヴィスコンティ監督の作品について問われた際、「あれはジャン・ルノワールの模倣だ」と率直に批判し審査員を驚かせましたが、その歯に衣着せぬ物言いをヴィスコンティ本人に評価され、合格したという逸話は彼の反骨精神をよく表しています。娘のアントネッラも、誰かに自分の人生を操られることを嫌い、猛烈に反抗する人物だったと語っています。

国立映画実験センターで学んだ後、イタリア式コメディで名を馳せたステーノ監督に師事しました。1959年に『I ladri』で監督デビューし、1970年代後半にかけてはコメディやジャーロ（イタリア製のサスペンス映画）で一定の評価を確立しました。しかし、1969年の『Beatrice Cenci』や1972年の『マッキラー』など、娯楽性の高い作品の中にカトリック教会を痛烈に批判する要素を含めたため、『扱いづらい職人監督』というレッテルを貼られることになります。カトリック教会や欧米の古い因習を批判する作品を何度か手掛けたことから、教会からの監視の目もあったようです。自身については「神を探求しつつも、常に疑問を抱いている人間だ」と語り、また自らの挑発的な言動は「内面の脆さの裏返し」であるとも吐露しています。

彼のキャリアに大きな転換期をもたらしたのは、1979年に発表したゾンビ映画『サンゲリア』です。この作品に描かれた凄惨な人体破壊描写と、全編に響く耳障りなノイズは、多くのクリエイターに影響を与えました。そして、ジョージ・A・ロメロと並び称されるゾンビ映画の旗手、あるいは「マスター・オブ・ゴア」として名を馳せることになります。この作品は、ロメロの『ゾンビ』に便乗する形で『Zombi 2』として公開され物議を醸しましたが、フルチはゾンビ伝承の起源に言及し反論しました。また、ロメロが『ゾンビ』に込めた「消費社会への風刺」といったテーマに対しては、「真に観客を楽しませる娯楽作品を作れない人間が持ち込むものだ」と辛辣な批判を浴びせました。

『サンゲリア』のヒット後、日本でも多くのビデオソフトが『ルチオ・フルチの～』と冠して発売され、あたかも巨匠であるかのように人気を博しました。ファンの間では、『サンゲリア』『地獄の門』『ビヨンド』をキャリアの絶頂期を代表する三大傑作とする意見が一般的です。続く『墓地裏の家』や『ザ・リッパー』でやや精彩を欠き、以降の作品には低評価が多いという見方がありますが、これら以外にもカルト的な人気を誇る作品は少なくありません。彼の作品は、娯楽映画としての体裁を保ちつつも、観客を突き放すかのような難解な結末を迎えることが多く、その評価は賛否が分かれる傾向にあります。作品ごとに作風が変化するのも特徴的でした。

60代半ばまで精力的に活動を続けたフルチですが、晩年は健康状態が悪化し、第一線から遠ざかっていました。生前、自らが監督した作品の中で最も出来が悪いと感じていたのは『サンゲリア2』だったと語っています。1996年には、ダリオ・アルジェント製作による『肉の鑞人形』を監督する予定でしたが、糖尿病の合併症が原因でその生涯を終えました。当初フラミニオ墓地に埋葬されましたが、現在はローマのローレンティーノ墓地に埋葬されています。没後、批評家たちによって改めてその功績が見直され、現代ホラー映画における重要な人物として確固たる地位を築いています。

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