ダルムシュタット工科大学

ドイツのヘッセン州に位置するダルムシュタット市にあるダルムシュタット工科大学（Technische Universität Darmstadt、略称: TUダルムシュタット）は、ドイツを代表する主要な工科大学グループであるTU9の一員です。フランクフルトから南へおよそ30km（電車で約1時間）の距離に位置し、都市中心部と郊外のリヒトヴィーゼにキャンパスを構えています。また、近隣には世界的に著名な重イオン研究所があり、研究面での連携も緊密に行われています。

歴史

ダルムシュタット工科大学の起源は、1836年に設立された高等専門学校（Höhere Gewerbeschule）に遡ります。その後、1844年には自前の校舎を取得し、教育環境を整備しました。1864年には工科学校（Technische Schule）、1868年にはヘッセン大公技術学校（Großherzoglich Hessische Polytechnische Schule）と名称を変えながら発展を続けました。

決定的な転換期は1877年10月10日に訪れます。この日、ヘッセン大公ルートヴィヒ4世の勅令により、技術学校はダルムシュタット工科大学（Technische Hochschule Darmstadt）へと昇格し、正式に大学として設立されました。しかし、設立後間もない1881年から1882年にかけては、大学の存続自体が議論される困難な時期を迎えます。

この危機を乗り越える大きな力となったのが、1883年に世界で初めて設置された電気工学部でした。この先進的な取り組みは大学の評価を飛躍的に高め、人気を回復させました。その後も、1895年には市中心部に新しい校舎が建設され、1899年には学位授与権を獲得するなど、教育・研究機関としての基盤を強化していきました。1913年には航空工学の講座が開設されるなど、常に時代の先端を行く分野を取り入れています。1924年には、工学以外の教養教育が数学自然科学系と人文社会科学系に分けられるなど、学術領域の多様化も進みました。

1930年代に入ると、ナチスによる政治支配が大学にも及び、1933年1月にはその影響が急速に拡大しました。同年10月には「指導原理」に基づく新体制が敷かれ、学長は州政府から任命されるようになり、多くのユダヤ人科学者がダルムシュタットから逃れざるを得ない状況となりました。

第二次世界大戦末期の1944年9月、ダルムシュタット市は激しい爆撃を受け、町の約8割が破壊されました。これには大学の主要な建物の多くも含まれていました。終戦後、連合軍の命令により大学は短期間閉鎖されましたが、1946年には教育活動を再開しました。復興への道を歩み始めた大学は、翌1947年には早くも工学教育に関する国際会議を開催し、国際的なネットワークの再構築に努めました。

1960年代後半から1970年代前半にかけては、学生数の急増に対応するため、郊外のリヒトヴィーゼに第二キャンパスが建設され、大学の規模が拡大しました。そして1997年10月には、名称を現在のダルムシュタット工科大学（Technische Universität Darmstadt）へと変更し、単なる工業技術だけでなく、より幅広い学術領域を包含する総合大学としての性格を明確にしました。

学部構成

ダルムシュタット工科大学は、工学、自然科学、人文科学など、多岐にわたる分野を網羅する学部・学科で構成されています。主な学部としては、建設、土木、生物、化学、情報工学、人文科学、機械工学、計算機科学、数学、物理学などがあります。

著名な卒業生

これまでにダルムシュタット工科大学は、各界で活躍する多くの優れた人材を育成・輩出してきました。代表的な卒業生には、ジャイアント磁気抵抗効果の発見でノーベル物理学賞を受賞したペーター・グリューンベルク氏、分子構造やスペクトルに関する研究でノーベル化学賞を受賞したゲルハルト・ヘルツベルク氏といったノーベル賞受賞者がいます。また、ドイツの数学者・計算機科学者で「ペトリネット」の発明者として知られるカール・アダム・ペトリ氏、BMW AG取締役会会長のオリバー・ジプセ氏、元ダイムラー・クライスラー（現メルセデス・ベンツ・グループ）CEOのクラウス・ディーター・フェーリンガー氏など、学術界や産業界のリーダーを多数輩出しています。日本の数学者である高木剛氏（東京大学大学院教授）も同大学の卒業生です。

日本の協定校

ダルムシュタット工科大学は、国際交流を積極的に推進しており、特に日本の大学とも緊密な関係を築いています。具体的には、新潟大学、長岡技術科学大学、長岡工業高等専門学校、大阪大学といった日本の教育機関と協定を結び、学生や研究者の交流を促進しています。

ダルムシュタット工科大学は、その長い歴史、世界初の電気工学部設立に代表される革新性、困難な時代を乗り越えた復興力、そして多岐にわたる分野で活躍する人材育成を通じて、ドイツ国内のみならず、世界の科学技術および学術の発展に大きく貢献し続けている大学です。

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