ダーシェンカ

ダーシェンカ

ダーシェンカ（Dášenka, Dasenka）は、20世紀を代表するチェコの作家、カレル・チャペックの傍らに常にいた愛すべき存在です。彼女はフォックス・テリア系の犬で、チャペックが生涯を共にした愛犬イリスが産んだ子犬としてこの世に生を受けました。やがて、チャペックが綴った一冊の本を通じて、彼女の存在はチェコ国内にとどまらず、世界中の人々に知られることになります。

ダーシェンカの最も印象的な特徴は、そのユニークな外見にあります。体全体はまぶしいほどに白い毛で覆われているのに対し、両耳だけがくっきりと黒いのです。この配色のため、古くから蓄音機のシンボルとして知られるキャラクター犬、ニッパーとよく引き比べられます。ニッパーもまた白い体に色付きの耳を持つ犬ですが、毛並みが滑らかなスムースヘアード・フォックス・テリアであるのに対し、ダーシェンカはややふさふさとした毛質を持っていました。こうした細部の違いにも、一匹一匹の犬が持つ個性があることを感じさせます。

ダーシェンカが不朽の名声を得るきっかけとなったのは、チャペック自身によって1933年に発表された著作『ダーシェンカ、子犬の生活』です。この作品は、子犬として生まれたばかりのダーシェンカが日々成長していく様子を、チャペック自身の愛情あふれる筆致と、彼が撮影した多数の写真、そしてユーモアあふれる挿絵や詩で綴ったものです。生まれたばかりの小さな命が、やがて立派な犬へと育っていく過程での、無邪気な行動、好奇心旺盛な探検、そして時にはやらかしてしまういたずらなどが、生き生きと描かれています。チャペックの温かい観察眼と、子犬への深い愛情が伝わってくるこの本は、単なるペットの記録ではなく、動物文学、あるいは人間と動物の絆を描いた優れた作品として評価されています。

この作品は世界各国で翻訳され、日本でも広く読まれています。初めての日本語訳は、1995年にSEG出版から「ダーシェンカ あるいは子犬の生活」として刊行されました。その後も、その人気は衰えることなく、メディアファクトリー、ソニーマガジン、プチグラパブリッシングといった様々な出版社から、多様な装丁や形式で関連書籍が発売され続けています。これらの出版は、ダーシェンカとチャペックの作品が、時代を超えて日本の読者にも深く愛されている証と言えるでしょう。また、チャペックの他の著作、『チャペックの犬と猫のお話』（河出書房新社、1996年刊、石川達夫訳）などでも、彼の愛犬や愛猫たちとの暮らしが描かれており、ダーシェンカもその中に登場する可能性があります。

文学作品として親しまれる一方で、ダーシェンカは映像メディアの世界にもその姿を現しています。2008年には、『between us ダーシェンカ』というタイトルでアニメーション化されました。全12話のシリーズとして制作され、日本の公共放送であるNHK-BSでも放映されました。動くダーシェンカの姿や、原作のエピソードを基にした物語は、新たなファンを獲得しました。このアニメーションは後にビクターエンタテインメントによってDVD化され、現在でも映像作品としてダーシェンカの世界を楽しむことができます。

ダーシェンカは、一匹の犬でありながら、作家カレル・チャペックの創造性を通じて、文学やメディアの中に生き続ける特別な存在です。彼女の物語は、子犬の成長という普遍的なテーマを描きつつ、ユーモア、写真、そして愛情が織りなす独特の世界観を持っています。白い体に黒い耳という愛らしい姿、そして作品の中で見せる生き生きとした姿は、時代や国境を越えて多くの人々の心を捉え、今もなお世界中で愛され続けています。

関連事項:

テリア
ニッパー (犬)

外部リンク:

* スヌーピーに似た犬を探せ - archive.today（2013年4月27日アーカイブ分）（体は白く耳だけ黒いワンコ集）

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