ダービー伯爵

ダービー伯爵：栄光と没落、そして現代へ繋がる歴史

ダービー伯爵位は、イングランド貴族の伯爵位の中でも特に長く、そして複雑な歴史を持つ爵位です。1139年の最初の叙位から現在まで、その栄光と没落、そして復活を繰り返してきました。本稿では、ダービー伯爵家の歴史を、3つの異なる創設時期に分けて、詳細に解説します。

第1期：フェラーズ家の興亡 (1139-1279)

最初のダービー伯爵位は、1139年、ロバート・ド・フェラーズに与えられました。スタンダードの戦いで活躍した功績による叙位でした。フェラーズ家は6代にわたってこの爵位を保持しましたが、6代伯ロバート・ド・フェラーズがヘンリー3世への反乱を起こした結果、1279年に領地と爵位を没収され、この系統のダービー伯爵位は消滅しました。しかし、6代伯の息子、ジョン・ド・フェラーズは1299年にフェラーズ男爵に叙されています。この男爵位は、現在も存続しているかどうかは確認できていません。

第2期：ランカスター家と王位 (1337-1399)

2度目のダービー伯爵位は、1337年、ヘンリー3世の次男でありランカスター家の祖であるヘンリー・オブ・グロスモントに授けられました。彼はその後、ランカスター公にも叙任されています。この爵位は、彼の孫にあたるヘンリー・ボリングブルックに継承されましたが、彼は1399年にリチャード2世を倒してヘンリー4世としてイングランド王に即位したため、ダービー伯爵位は王冠に統合され消滅しました。

第3期：スタンリー家の繁栄 (1485-現在)

現存するダービー伯爵位は、3度目の創設に当たります。1485年、トマス・スタンリーがヘンリー7世によって叙位されました。これは、薔薇戦争におけるボズワースの戦いで、ヘンリー7世（当時リッチモンド伯）側に付いた功績によるものです。それ以来、この爵位はスタンリー家（後にスミス＝スタンリー家へ改姓）によって世襲され、現在に至ります。

このスタンリー家は、長い歴史の中で、イギリス社会に多大な影響を与えてきました。12代伯エドワード・スミス＝スタンリーは、競馬のダービーステークスの創設者の一人であり、その名に由来して、世界各地で競馬のダービーレースが行われています。また、16代伯フレデリック・スタンリーは、スタンレー・カップを寄贈したことで知られます。14代伯エドワード・スミス＝スタンリーは、ヴィクトリア朝中期に3度も首相を務めた、非常に有名な人物です。

スタンリー家は、政治だけでなく、文化や芸術にも貢献してきました。特に4代伯から6代伯にかけては、劇団『ストレンジ卿一座』を支援しており、シェイクスピアとも関係があったと言われています。また、マン島の統治権を世襲していた時期もあり、その影響力は非常に大きかったといえます。

歴代ダービー伯爵の中には、政治、軍、文化など様々な分野で活躍した人物が数多くいます。内戦を経験したり、宗教改革の時代を生き抜いたり、首相を務めたりと、激動の時代を生き抜き、その度に家系は変化し、爵位は危機に瀕し、家宝が失われたり、没落を経験したりと、その歴史はドラマチックで、イギリスの歴史そのものを反映していると言えるでしょう。

現在、ダービー伯爵位は19代伯エドワード・スミス＝スタンリーが継承しており、彼の息子であるスタンリー卿エドワード・ジョン・ロビン・スタンリーが、次の伯爵位継承者です。一族は現在もノーズリー・ホールに居住し、4世紀以上にわたるダービー伯爵家の歴史を未来へと繋いでいます。その歴史は、イギリス史における重要な一章であり続けているのです。

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