チアメトキサム

チアメトキサム（Thiamethoxam）とは

チアメトキサムは、ネオニコチノイド系に分類される殺虫剤の一種で、商品名としては「アクタラ」が知られています。この殺虫剤は、様々な種類の昆虫に対して効果を発揮します。しかし、その一方で、マルハナバチをはじめとするハチ類への影響が懸念されており、環境への負荷についても議論がなされています。

歴史

チアメトキサムは、スイスの農薬メーカーであるシンジェンタ社によって開発されました。しかし、開発の過程で、同じくネオニコチノイド系殺虫剤であるイミダクロプリドの特許を持つバイエル社との間で訴訟問題が発生しました。この訴訟は2002年に和解し、シンジェンタ社がバイエル社に1億2000万ドルを支払うことで決着しました。

作用機序

チアメトキサムは、植物の内部に浸透する性質を持つ浸透性殺虫剤です。植物に吸収されると、花粉を含めた植物全体に成分が運ばれ、それを摂食した昆虫に対して効果を発揮します。昆虫は、胃から吸収したり、気管系を通じて直接接触したりすることで薬剤を摂取します。そして、この薬剤は、昆虫の中枢神経系にあるニコチン性アセチルコリン受容体を阻害します。これにより、神経細胞間の情報伝達が妨げられ、最終的に昆虫の筋肉を麻痺させ、死に至らしめます。

また、シンジェンタ社は、チアメトキサムが植物の生理反応を促進し、特定の「機能タンパク質」を発現させることで、植物の成長を促進する効果もあると主張しています。

毒性

ネオニコチノイド系殺虫剤は、哺乳類よりも昆虫に対して高い毒性を示すことが特徴です。これは、アセチルコリン受容体に対する選択性が高いためと考えられています。国際連合食糧農業機関（FAO）は、チアメトキサムを「ヒトに若干有害（WHOクラスIII）」と評価しており、摂取すると有害であるものの、皮膚や目に対する刺激性は低いとされています。また、試験管内および生体内での毒性試験においても、変異原性は確認されていません。

しかし、FAOは、チアメトキサムが魚類、ミジンコ、藻類に対しては無毒であるものの、鳥類に対しては中程度の毒性を持ち、特にハチなどの小昆虫に対しては非常に高い毒性を示すと評価しています。特に、ハチに対しては急性毒性が確認されています。化学物質の分類および表示に関する世界調和システム（GHS）では、「飲み込むと有害。水生生物には、長期影響を伴って非常に高い毒性」と分類されています。

さらに、チアメトキサムの代謝物質であるクロチアニジンは、ハチ1匹あたり0.05～2ナノグラムという亜致死量でも、ハチの採餌活動を低下させることが知られています。この影響は、少なくとも1999年から確認されており、2012年には、RFIDタグを付けたミツバチを用いた実験により、ハチ1匹あたり0.5ナノグラム以上のクロチアニジンを摂取すると、採餌飛行時間が長くなることが明らかになりました。

規制

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国では、1999年に木材保存剤および殺虫剤として初めてチアメトキサムの使用が認可されました。2014年時点では、様々な穀物への使用が認められています。2014年9月には、シンジェンタ社が環境保護庁に対し、より広範囲な穀物への使用を認可するように要請しました。特に、種子処理だけでなく、葉への散布も認めることで、中期から終期の昆虫被害に対応できるように求めています。

欧州連合

2012年以降、ハチが花粉や花蜜から微量のネオニコチノイドを摂取し、それが原因で巣に戻れなくなり、蜂群崩壊症候群を引き起こしているという研究論文が発表されました。これらの研究報告に基づき、欧州食品安全機関は2013年1月に、ネオニコチノイドがミツバチに対して許容できないほど高いリスクをもたらしていると発表しました。これを受け、欧州連合は2013年4月に、2年間のネオニコチノイド系殺虫剤の規制を決定しました。この規制により、ハチが訪れる可能性のある穀物へのイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムの使用が禁止されました。

2018年2月には、欧州食品安全機関が、ネオニコチノイドがミツバチと野生のハチの両方にとって深刻な危険をもたらしていることを示す新たな報告書を発表しました。これを受けて、2018年4月、欧州連合加盟国は、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムという3種類の主要なネオニコチノイドについて、屋外での使用を全面的に禁止することを決定しました。

その他の国

チアメトキサムは、世界中の多くの国で、農業、ブドウ栽培、園芸などの分野で広く利用されています。

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