チェロ協奏曲第1番 (ハイドン)

チェロ協奏曲第1番 ハ長調 Hob. VIIb:1

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが1765年から1767年頃にかけて作曲した『チェロ協奏曲第1番 ハ長調 Hob. VIIb:1』は、彼のチェロ協奏曲の中でも特に重要な位置を占める作品です。ハイドンが手がけたとされる6曲のチェロ協奏曲のうち、現存する真作として確証があるのは、この第1番と『チェロ協奏曲第2番 ニ長調』のみであるため、このハ長調の協奏曲は、ハイドンのチェロ作品を理解する上で欠かせない存在となっています。

作曲背景と音楽性

この協奏曲は、当時エステルハージ侯爵の宮廷チェリスト、ヨーゼフ・フランツ・ヴァイグル（Joseph Franz Weigl, 1749-1820）のために作曲されました。ヴァイグルは優れた技巧を持っていたとされ、ハイドンはこの作品に、当時の最新の音楽的要素と伝統的な形式を融合させています。楽章構造の一部には、バロック時代の協奏曲に特徴的なリトルネロ形式の要素や、伴奏声部の比較的シンプルな音形が見られる一方、両端楽章が急速なテンポのソナタ形式で書かれているなど、古典派への移行期にあったハイドンの創作における意欲と革新性を示しています。この作品は、バロックから古典派へと移り変わる時代の、ハイドンの音楽スタイルの変遷を知る上で興味深い事例と言えるでしょう。

楽譜の発見と復活

『チェロ協奏曲第1番』の楽譜は、作曲から長い間行方不明となっていました。しかし、幸運にも1961年にチェコのプラハで、その筆写譜が発見されました。この発見は音楽界に大きな喜びをもたらし、翌1962年には、チェリストのミロシュ・サードロの独奏によって、この忘れられていた名曲の「復活初演」が行われました。さらに、日本においては、1966年にチェリストの平井丈一朗が、森正指揮の日本フィルハーモニー交響楽団と共に、初めてこの作品を紹介しました。楽譜の再発見が、この作品を再び世界中の聴衆が耳にすることができるようにしたのです。

楽器編成

この協奏曲は、独奏チェロ、オーボエ2、ホルン2、そして弦楽パート（ヴァイオリン1・2、ヴィオラ、チェロ、ヴィオローネ）という編成で書かれています。ただし、これは発見された筆写譜に基づいた出版譜に記載されている編成であり、ハイドンの自筆譜が失われているため、正確なオリジナルの編成については完全に断言できません。重要な点として、この作品では独奏チェロ以外のチェロパートは存在せず、弦楽パートの低音はヴィオローネが担います。通奏低音、例えばチェンバロのような鍵盤楽器が用いられることは、この時代のハイドンの協奏曲においては想定されていませんが、古い習慣に基づく誤った解釈から、演奏にチェンバロが加えられるケースが時折見られます。弦楽パートは、各パート複数人で演奏されることが一般的です。また、楽章構成の項で触れるように、第2楽章ではオーボエとホルンが休止することから、オリジナルの編成がオーボエ、ホルン各2本と弦楽五部（ヴァイオリン1・2、ヴィオラ、独奏チェロ、ヴィオローネ）の合計9人の奏者による小規模な室内楽編成であった可能性も指摘されています。

楽章構成

作品は全3楽章で構成されており、全曲の演奏時間は約25分です。

1. 第1楽章 モデラート: ハ長調、4分の4拍子で、協奏的ソナタ形式によって書かれています。この楽章のため、ハイドン自身が作曲したカデンツァが現存しており、演奏に用いられることがあります。
2. 第2楽章 アダージョ: ヘ長調、4分の2拍子、優美な三部形式（A-B-A形式）で構成されています。この楽章では、オーケストラのオーボエとホルンは演奏せず、弦楽器と独奏チェロのみによって、静かで美しい響きが作り出されます。
3. 第3楽章 アレグロ・モルト: ハ長調、4分の4拍子、ソナタ形式によるフィナーレです。非常に活発で技巧的な楽章であり、独奏チェロの華麗なパッセージが光ります。

特筆事項

本来チェロのために書かれたこの協奏曲は、出版譜の編成に沿って、独奏楽器をフリューゲルホルンに置き換えて演奏される機会が増えています。20世紀以降、特にフリューゲルホルン奏者の学習過程にある学生にとって、この曲は標準的なレパートリーの一つとなっており、アマチュアオーケストラの定期演奏会などで取り上げられることも珍しくありません。このことは、作品の高い音楽性と柔軟な演奏可能性を示す例と言えるでしょう。

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