サセックス王国

サセックス 王国

サセックス王国（または南サクソン人の王国）は、現在のイングランド南部沿岸地域に位置していた歴史的な国家です。サクソン人によるこの入植地が発展して成立し、その領域はかつてブリタンニアに存在したレグネンセス王国や、後世のサセックス州の範囲とほぼ一致しています。

初期のサセックス王国の風景は、広大で密生したアンドレッドの森によって特徴づけられていました。この森は、古代の記録によると幅が120マイル（約190キロメートル）にも及んだとされますが、実際には90マイル（約150キロメートル）程度と推定されています。狼やイノシシ、クマなどが生息するこの森は非常に深く、その中に位置する集落の一部は、中世の土地調査記録であるドゥームズデイ・ブックにすら記載されないほどでした。王国は歴代のサセックス王たちによって統治されていました。

歴史

王国の始まり

『アングロサクソン年代記』には、サセックス王国の建国に関する神話が記されています。これによれば、477年にエールとその3人の息子が3隻の船でクメンショアと呼ばれる場所に上陸したとされます。上陸した彼らは、抵抗する先住民を殺害し、生き残った人々をアンドレッドの森へと追いやったと伝えられています。年代記はさらに、エールが485年にマークレデスバーンの川岸でブリトン人と戦い、491年にはペベンシーを包囲して住民を虐殺した出来事を記録しています。

クメンショアは伝統的にセルジー沖のオウエンズ・ロックス付近と考えられてきましたが、エールやその息子たちの存在を示す考古学的な証拠は見つかっていません。このため、現代の歴史家の多くは、エールによる上陸と建国譚は神話であると考えています。

実際の入植の様子は、当時の墓地の分布からうかがい知ることができます。墓地の副葬品や陶器のデザインを、現在のドイツ北部にあたるサクソン人の故地のものと比較することで、入植者の起源が特定されています。5世紀における主要な入植地は、東サセックス州のウーズ川下流部とチャックメア川に挟まれた地域であったことが、この地に集中するアングロ・サクソン系墓地の数から推定されています。また、ウェスト・サセックス州のハイダウン・ヒルやチチェスター近郊の丘陵地でも墓地が見つかっています。ウーズ川とチャックメア川の間の地域は、アングロ・サクソン人の傭兵が協定に基づいて入植した土地であったという説が有力です。

初期の墓地の発掘からは、協定による入植を裏付ける証拠も見つかっています。例えば、ルーカリー・ヒルの墓地からは、後期ローマ時代やブリタンニアで製造されたローマ風の金属製品が出土しており、この地域の入植が5世紀初頭にまで遡る可能性を示唆しています。その後の発掘調査では、広範囲にわたるサクソン人の建物跡が確認されており、竪穴建物や長方形の柱穴を持つ構造など、多様な形式が見られます。

ハイダウンの墓地は、1997年にローマ時代の金銀財宝（パッチングの財宝）が発見された場所からわずか2キロメートルほど離れています。この財宝には461年に鋳造された硬貨が含まれており、ハイダウンの墓地が財宝が埋められた時期と同時期にサクソン人によって使用されていたことが推測されています。当時の入植地の特定には至っていませんが、パッチングとハイダウンの関連性や、ローマ人・ブリトン人のコミュニティがサクソン人傭兵を雇っていた可能性が指摘されています。

7世紀の記録

491年以降、サセックスに関する歴史記録はしばらく途絶え、次に現れるのは607年にウェセックスのケオルウルフが南サクソン人と戦ったという記述です。

681年、追放されていたノーサンブリアの聖ウィルフリッドがサセックス王国にたどり着き、5年間滞在しました。彼は福音を伝え、多くの人々に洗礼を授けました。ベーダの記述によれば、当時のサセックス王エゼルウェルホは、既にマーシアで洗礼を受けていました。

ウィルフリッドが到着した当時、サセックスは深刻な飢饉に見舞われていました。ウィルフリッドが地元の人々に魚の捕獲方法を教えたところ、その教えに感銘を受けた人々が次々と洗礼を希望したといいます。洗礼が執り行われた日には雨が降り、飢饉が終息したと伝えられています。

エゼルウェルホ王は、ウィルフリッドに87ハイド（古代の土地単位）の土地と王領の荘園を与え、セルゼー修道院の建設を許可しました。この修道院は、後に南サクソン司教区の中心となり、ノルマン征服後の1075年に司教座がチチェスターに移されるまでその役割を担いました。

聖ウィルフリッドの到来後まもなく、ウェセックスから追放されていた王子キャドワラ（後のウェセックス王）がサセックス王国に侵攻し、エゼルウェルホ王を殺害しました。しかし、エゼルウェルホの後を継いだエルダーマンのベルトゥンとアンドゥンによって、キャドワラは撃退されました。686年、南サクソン人たちはケント王国の内紛に乗じて王の甥を支援しましたが、ベルトゥンが戦死し、サセックス王国は一時的にウェセックス王となったキャドワラの支配下に置かれることになりました。

この後の南サクソン王たちについては、一部の勅許を除いて詳しいことは分かっていません。692年には、ヌナ王が姉妹に土地を安堵した勅許があり、ワットという別の王が証人として名を連ねています。『アングロサクソン年代記』によれば、ヌナはウェセックス王イネの親族であり、710年に両者がブリトン人の王と共同して戦ったと記されています。ベーダの記述では、サセックスは長年にわたりイネの支配下にあったとされています。

8世紀以降の変遷

8世紀のサセックスに関する情報は断片的ですが、現存する勅令などから複数の王や有力者の存在が確認できます。例えば、バーファム近郊の土地取引に関する勅令からは、ヌナ王をはじめ、バーホフリス、エオーラ、ウルフヘア、ベオバ、ベオラ、エッカ、オズムンド王、エラ、ティドバーグといった人物の名前が見られます。ヌナ王の勅令には、共同統治者と思われるオスリックが副署しているものもあります。717年のヌナ王の最後の勅令には、エゼルスタンという別の王が証人となっています。

『アングロサクソン年代記』は722年に「エルドベルトがサリーとサセックスへ向かい、イネが南サクソン人と戦った」と記録しています。その後、エゼルベルトという王が登場しますが、彼の存在は勅令によってしか知られていません。765年にはエルドウルフ王が土地を安堵し、エルフワルドとオスラックという2人の王が証人となっています。オズムンド王も765年と770年に土地を安堵しており、後者の土地安堵はマーシア王オッファによって追認されています。

マーシア王オッファはエゼルベルトの勅令も追認しており、さらに772年にはオッファ自身がサセックスで土地を安堵した記録があり、オスワルドが「サセックス公」として証人となっています。これは、この頃までにオッファがサセックス王国を併合し、かつて王であった者たちが「公爵」としてマーシア王権のもとで権力を行使するようになった可能性を示唆しています。

795年にオッファが死去すると、マーシアの支配は一時的に弱まり、南サクソン人は再び独立を取り戻しましたが、それは長く続きませんでした。ウェセックス王国の勢力拡大に伴い、サセックス王国は、その後のイングランド統一国家形成の過程で、七王国の中で最初に他国に併合され、王国としての歴史を終えました。

王国消滅後

825年、南サクソン人たちはウェセックス王エグバートに服属し、これ以降サセックスはウェセックス王朝の支配下に入りました。その後、サセックスは伯領となり、時には隣接するケント伯領と一体化して統治されることもあったようです。

9世紀後半の895年以降、サセックスはデーン人（ヴァイキング）の度重なる襲撃に悩まされるようになります。この襲撃はデンマーク王クヌートがイングランド王となる1016年まで続きました。この時期、ゴドウィン一族が台頭し、エドワード懺悔王の時代にはサセックス州の3分の1を所有するほどの勢力となりました。ゴドウィン一族はおそらくサセックス出身であったと考えられています。

900年から1066年のノルマン征服までの間、かつての南サクソン王家「エーリンギ」は、西サクソン王権のもとで「エルダーマン」（伯爵）としてサセックスを統治していたとする説があります。982年には、「南サクソン人の君主」と呼ばれたエドウィン伯爵が死去し、アビンドン修道院に埋葬された記録が残っています。彼は自身の領地をこの修道院に遺贈したとされていますが、その遺言状は現存しません。彼はエゼルレッド2世の勅令に「伯爵エアデュウィン」として証人となった記録もあります。

次の世代では、サセックスのセイン（貴族）であったウルフノス・キルドがイングランド政治で重要な役割を果たしました。1009年には彼の行動がイングランド艦隊の壊滅につながり、1011年にはサセックスを含む南東イングランドがデーン人の手に落ちました。デーン朝は地方行政を改革し、より大規模な伯爵領を設置しました。ウルフノス・キルドは、後にウェセックス伯爵となりサセックスを含む広大な領地を支配したゴドウィンの父でした。ゴドウィンが1053年に死去した後、そのウェセックス伯爵領は息子で後のイングランド王ハロルド2世に引き継がれました。

1066年 10月14日、イングランド最後のサクソン人王であるハロルド2世は、ヘイスティングズの戦いでウィリアム征服王の軍勢に敗れ、戦死しました。この戦いにはサセックスの戦士たちがほぼ全員参加したと見られており、地域の貴族の多くが命を落とし、所領を没収されました。少なくとも、サセックスにあった387か所の荘園のうち353か所が、征服王によってサクソン人の手からノルマン人へと移され、サセックスにおけるサクソン人の支配勢力は完全に一掃されました。こうして、サセックスは王国としての歴史を終え、新たな時代を迎えることになります。

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