チプリアーニ・ポッター

フィリップ・チプリアーニ・ハンブリー・ポッター

フィリップ・チプリアーニ・ハンブリー・ポッター（1792年10月3日 - 1871年9月26日）は、19世紀イギリスで多方面にわたり活躍した音楽家です。作曲家、ピアニストとして演奏活動を行う傍ら、長年にわたり教育者としても多くの音楽家を育てました。

生涯

ポッターはロンドンに生まれました。彼の父であるリチャード・ハドルストン・ポッターはピアノ教師であり、彼は父から音楽の基礎を学びました。彼の「チプリアーニ」というミドルネームは、イタリアの画家ジョヴァンニ・バッティスタ・チプリアーニの娘で、彼の名付け親となった人物に由来しています。父のもとでの学びの後、ポッターはトーマス・アトウッド、ウィリアム・クロッチ、そしてヨーゼフ・ヴェルフルといった当時の著名な音楽家たちに師事しました。1816年には自作の序曲を演奏会で発表するなど、作曲家としての活動も開始します。

しかし、当時のイギリスで十分な機会を得られないと感じた彼は、1817年に音楽の中心地であるウィーンへ渡りました。そこでベートーヴェンと出会い、アロイス・フェルスターのもとで学ぶことを勧められました。ウィーンでの経験は、彼の音楽に大きな影響を与えたと考えられます。

1819年にイギリスへ帰国したポッターは、ロンドンの音楽シーンにおいて中心的な役割を担うようになります。ピアニストとしては、モーツァルトやベートーヴェンの重要なピアノ協奏曲、例えばベートーヴェンの第1番、第3番、第4番などをイギリスで初めて演奏しました。また、指揮者としても活躍し、メンデルスゾーンが自身のピアノ協奏曲第1番をイギリスで初演した際には、ポッターが指揮台に立ちました。

教育活動

ポッターのキャリアにおいて特筆すべきは、教育者としての功績です。1822年から王立音楽アカデミーで教鞭を執り始め、当初はピアノを、後に指揮法を教えました。そして1832年には同アカデミーの学長に就任し、1859年までの長きにわたりその職を務めました。学長として、彼は多くの才能ある音楽家を育成し、ウィリアム・スタンデール・ベネットやジョゼフ・バーンビーといったイギリス音楽界の重鎮を輩出しました。

教育活動に注力するにつれて、ポッターは教材の作成や、モーツァルト、ベートーヴェンといった大家たちの鍵盤楽曲の校訂作業に多くの時間を費やすようになりました。このため、自身の作曲活動は次第にペースが落ち、特に1837年以降に書かれた作品はごくわずかです。

作品と音楽的特徴

作曲数は減ったものの、ポッターは生涯を通じてヨーロッパ大陸で生まれる新しい音楽への強い関心を持ち続けました。晩年の1871年には、ピアニストのケイト・ローダーと共に、ブラームスの『ドイツ・レクイエム』を2台ピアノ編曲による「ロンドン・バージョン」としてイギリス初演するなど、新しい作品の紹介にも貢献しました。

彼の残した作品には、現在9曲が現存する交響曲（彼自身の番号付けでは10曲作曲されたことが示唆されています）や、4曲のピアノ協奏曲、そしていくつかの室内楽曲やピアノ独奏曲があります。管弦楽曲では、ワーグナーがロイヤル・フィルハーモニック協会の指揮者を務めた際に、ポッターの交響曲第10番ト短調を高く評価した記録が残っています。彼の器楽曲には、ソナタ形式の扱いなどにおいて、ウィーンで師事した音楽家たち、特に大陸の音楽家たちの影響が色濃く見られます。声楽曲は少なく、カンタータ1曲とわずかな歌曲があるのみです。

音楽活動以外にも、彼は音楽雑誌に論文を2本寄稿しており、そのうちの1本にはベートーヴェンを訪問した時の様子が記されています。

ポッターは個人の所有物として、ストラディバリウスのヴァイオリンを持っていました。この楽器は現在「チプリアーニ・ポッター」という名称で知られています。

フィリップ・チプリアーニ・ハンブリー・ポッターは、19世紀前半のイギリス音楽界において、演奏家、教育者、そして作曲家として重要な役割を果たしました。彼の教育者としての貢献は、後進の育成を通じてイギリス音楽の発展に大きく寄与しました。

主要作品（抜粋）

管弦楽曲
序曲 ホ短調（1815年、改訂1848年）
交響曲 第6番 ト短調（1832年）
序曲『Antony and Cleopatra』（1835年）
序曲『Cymbeline』（1836年）
序曲『The Tempest』（1837年）
協奏曲
ピアノと管弦楽のための導入とロンド『alla militaire』（1827年）
ピアノ協奏曲 ニ短調（1832年）
ピアノ協奏曲 変ホ長調（1833年）
ピアノ協奏曲 ホ長調（1835年）
声楽曲
* カンタータ『Medora e Corrado』（1829年–1830年）

音源としては、彼の交響曲などが一部CD化されています。

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