チャン (酒)

チャン：チベット文化の醸造酒

チャン（チベット文字：ཆང་; ワイリー方式：chang）は、ネパールやインドのシッキム州など、主にチベット周辺で醸造される伝統的な酒です。この飲み物はネパール語でジャー（Jad, Jaanr）とも呼ばれ、多くの家庭で手作りされています。主な原料にはシコクビエ、米、ムギ、トウモロコシなどが用いられ、いわゆるどぶろくの一種です。

チャンの特徴

チャンは炭酸ガスと酸味が絶妙に調和し、ビールとどぶろくの中間的な風味を楽しむことができます。チベットの人々にとって、チャンは日常生活だけでなく、重要な儀式や祭祀にも欠かせない存在です。特に結婚の際には、四回以上チャンを納める儀式が行われ、離婚時には妻に多くのチャンが贈られます。また、チベット仏教の祭りでは、寺院にチャンを寄進することもあります。

原料と製法

チャンの製造プロセスは家庭によって異なりますが、最も高品質なものは、主にカトマンズ盆地のネワール族や裕福なタカリー族によって作られています。他の山岳地域ではコムギ、オオムギ、アワ、ヒエといった雑穀が使われます。特にネパール北部では、チャンのためにシコクビエが栽培されています。

まず、これらの穀物を銅や素焼きの釜で約30分煮込み、炊き上げます。その後、竹で編まれたござに広げて冷まし、原料に対して1-2%の割合で砕いた餅麹（ムルチャ）とよく混ぜます。この混合物を容器に入れ、布団や毛皮で包むか、竹籠に入れて温かい場所で発酵させます。

原料が米の場合は1昼夜、シコクビエの場合は2-4日程度おき、発酵が進むとアルコールの香りが漂うようになります。その後、大きな陶製の壺に移し、さらに発酵を続け、最終的に完成させます。この一連の作業は、東南アジア各地の醸造酒の製法と共通点があります。また、チャンを蒸留するとラキシーという別の酒が生まれます。

ムルチャ（餅麹）

チャンを作る際に使用されるムルチャは、シコクビエやソバの粉に水を加えよく練った後、ヨモギに似た葉やシダ植物の粉末を加え、さらに練ります。地元の風味を加えるために、野草や香辛料を追加することもあります。

出来た団子状のムルチャは、チトパテやシダの葉に並べて微生物の増殖を促します。これが成功すると、白いカビの菌糸が現れますので、これを太陽にさらして乾燥させます。シッキム州では、このムルチャを専門に作る地域も存在します。

飲み方

伝統的な飲み方としては、トンバと呼ばれる木製の容器を用います。最初に湯を入れて温めたトンバに、もろみ状のチャンを入れ、更に湯を加えて混ぜます。竹の管（プル）を使って飲むのが特徴で、酒粕が口に入らないように工夫されています。シッキム州では、竹製のセプツという容器を使って同様に飲むことが一般的です。

結論

チャンはチベット地域の文化に深く根付いた飲み物であり、単なる酒以上の存在です。伝統的な製法と豊かな文化的背景を持つチャンは、訪れる人々にとって一度は味わってみる価値があるでしょう。

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