チャールズ・アボット (天文学者)

チャールズ・グリーリー・アボット（1872年5月31日 - 1973年12月17日）は、20世紀初頭から半ばにかけて、アメリカの科学界で重要な役割を果たした天文学者であり、機関の管理者でした。太陽からの放射エネルギーの研究に生涯を捧げ、特に太陽定数の精密な測定において先駆的な業績を残しました。また、スミソニアン協会の第5代会長として、単に研究を推進するだけでなく、アメリカの科学遺産の保護にも尽力しました。

幼少期と教育、そしてスミソニアンへの道

アボットはニューハンプシャー州ウィルトンに生まれました。若い頃から科学に関心を持ち、マサチューセッツ工科大学（MIT）で物理化学を専攻しました。卒業後、1895年に彼は意外なキャリアパスを歩み始めます。天文学に関する直接の経験はほとんどありませんでしたが、彼の優れた実験技術が認められ、当時スミソニアン協会の会長であったサミュエル・ラングレーの助手として迎え入れられました。

ラングレーは、航空研究にも情熱を注いでいましたが、同時に太陽放射の観測にも深く関わっていました。アボットはラングレーのもとで太陽観測プロジェクトに参加し、その実験能力を活かして観測機器の開発やデータ収集に従事しました。ラングレーが次第に航空分野へと活動の軸を移すと、アボットはスミソニアン天文台における太陽観測プロジェクトの中心的な責任者となっていきました。

太陽放射研究と科学技術への貢献

ラングレーの死後、1906年にはスミソニアン天文台の所長に就任しました。アボットの最大の科学的貢献は、太陽からのエネルギー出力、すなわち太陽定数の正確な測定です。当時の測定値には大きなばらつきがあり、太陽活動と地球の気候変動との関係を探る上で精密なデータが不可欠でした。

彼はこの課題に取り組むため、新たな観測機器の開発に注力しました。特に1909年に開発した高精度な放射計は、それまでの測定精度を飛躍的に向上させました。この放射計を用いて、彼は様々な場所、標高で太陽放射を測定し、太陽定数の変動について詳細な研究を進めました。彼の研究は、後の太陽物理学および気候科学の発展に重要な基礎を提供しました。

スミソニアン協会会長としての業績

天文台所長を務める傍ら、アボットはスミソニアン協会全体の運営にも深く関与するようになります。そして、チャールズ・ウォルコット前会長の死を受けて、1928年から1944年までの約16年間、スミソニアン協会の第5代会長という重責を担いました。

会長時代、彼は協会の研究活動を支援し、特に天文台や物理学関連の研究を推進しました。しかし、彼のリーダーシップの中で特に記憶されている業績の一つに、歴史的な文化財の保護と公開があります。特筆すべきは、航空史における最も重要な遺産の一つであるライトフライヤー号の帰還への尽力です。

ライト兄弟の最初の動力飛行機であるライトフライヤー号は、当時、様々な経緯からイギリスの科学博物館に貸し出されて展示されていました。アボットは、この歴史的に重要な機体が故国アメリカに戻され、国民に公開されるべきだと強く感じていました。彼はライト兄弟の弟であり、共同開発者であったオーヴィル・ライトと個人的に面談し、ライトフライヤー号のアメリカへの返還を熱心に働きかけました。

アボットの粘り強い説得と、歴史的遺産を大切にするスミソニアン協会の使命に対するオーヴィルの理解が相まって、ついにオーヴィルは機体の故国への返還を決断します。この決定は、オーヴィルが亡くなった後の1948年に実現し、その年の12月17日、ライトフライヤー号はワシントンD.C.にあるスミソニアン博物館（現在の国立航空宇宙博物館の前身の一つ）で公式に展示が開始されました。アボットが会長を退いた後の出来事ではありましたが、彼の努力がなければ実現しなかったであろう、歴史的な瞬間でした。

受賞歴と晩年

アボットは、その科学的貢献に対していくつかの著名な賞を受賞しています。1910年には、アメリカ合衆国科学アカデミーからヘンリー・ドレイパー・メダルを、そして1915年にはアメリカ芸術科学アカデミーからランフォード賞をそれぞれ授与されました。これらの賞は、彼の太陽放射研究が広く認められていたことを示しています。

アボットは非常に長寿でした。1944年にスミソニアン協会会長を退いた後も、彼は研究活動を続け、特に太陽周期が気候に与える影響など、様々な分野で論文を発表しました。101歳の誕生日を迎えた後、1973年12月17日に彼はその長い生涯を閉じました。彼は太陽物理学における精密測定の基礎を築き、またスミソニアン協会を率いる中で、アメリカの科学的研究と歴史的遺産の保護の両面において、後世に多大な影響を残した人物として記憶されています。

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