チャールズ・チャップリン・シニア

チャールズ・チャップリン・シニア：喜劇王の父、その舞台人生と影響

チャールズ・チャップリン・シニア（1863年 3月18日 - 1901年5月9日）は、20世紀を代表する喜劇俳優、チャーリー・チャップリン（チャールズ・チャップリン・ジュニア）の実父として知られています。しかし、彼自身もまた、1890年代のイギリスにおいて、ミュージックホールを中心に活躍した舞台俳優でした。

生涯

前半生

チャールズ・チャップリン・シニアは、1863年にロンドンのメリルボーン区で生まれました。肉屋を営む父スペンサーと母エレンの間に生まれた彼は、労働者階級の一員として育ちました。幼年期から青年期については詳しい記録が残っていませんが、少なくとも当初は舞台の世界とは無縁でした。1885年、22歳の時に19歳のハンナ・ハリエット・ペドリンガム・ヒルと結婚。ハンナは結婚の14週間前にシドニー・ジョンという息子を出産しており、チャールズにとっては義理の息子となります。1889年には、のちに喜劇王となるチャーリーが誕生しました。1891年頃から別居生活を送りますが、法的にはチャールズが亡くなる1901年まで婚姻関係は続きました。

舞台俳優として

当初は芸事とは縁遠かったチャールズですが、1886年にハンナが舞台女優としてデビューした後、1887年にポリー・ヴァラエティ・シアターの舞台に立ち、俳優としてのキャリアをスタートさせます。初期には物真似を中心に活動していましたが、次第に歌手としての人気を獲得。舞台では、女たらしや伊達男といったキザな役どころ、家賃を催促する家主、泣き止まない赤ん坊、口うるさい義母や妻など、「家庭で起こりうるさまざまな問題」を抱えた亭主や父親役を演じることが多かったようです。

チャールズが俳優として成功を収めたのは1890年頃からで、フランシス・デイ・アンド・ハンター社が刊行する楽譜の表紙に頻繁に登場するようになります。当時の大スター、ダン・レーノやハーバート・キャンベルと肩を並べるほどではありませんでしたが、楽譜の表紙に掲載されることは俳優にとって一種のステータスであり、チャールズは「有望株」と見なされていました。1890年中には、『教会の鐘が鳴ったら』 (As the Church Bells Chime) 、『普段の生活』 (Everyday Life) 、『そうだな、みんな』 (Eh, Boys?) の3曲の楽譜が出版されています。

1890年には、ミュージックホールの一座の一員としてアメリカ合衆国を巡業し、ニューヨークのユニオン・スクエア・シアターの舞台にも立ちました。『若くてかわいい少女』 (The Girl Was Young and Pretty) は、チャールズのヒットソングの一つとなりました。1897年頃からは地方巡業が中心となりますが、1898年にはレスターのニュー・エンパイア・パレス・シアターで主演を務め、「レスターきっての人気者の華々しい帰還」と銘打たれました。記録に残る最後の公演は、1900年9月にウォラム・グリーンのグランビル・シアターでの舞台でした。

私生活

アメリカ巡業の頃、ハンナはチャールズの芸人仲間であるレオ・ドライデンと不倫関係になります。チャップリンの伝記作家であるデイヴィッド・ロビンソンは、チャールズのアメリカ巡業が「結婚生活を決定的破局に導いた」と指摘しています。この頃からチャールズからの仕送りが途絶え、ハンナは1892年にシドニーとチャーリーの異父弟にあたるジョージ・ウィーラー・ドライデン（のちのウィーラー・ドライデン）を出産。チャールズのいない家庭は貧困にあえぎ、ハンナは精神的な病気を患い、1896年に矯正院に収容されることになります。

ハンナの収容後、シドニーとチャーリーは孤児院に通うことになります。ハンナの精神状態は不安定で、入退院を繰り返しました。チャールズは他の女性と同棲していたようですが、シドニーとチャーリーの養育費を巡って救貧委員会との間でトラブルになります。最終的には養育費を支払うことで合意しますが、間もなく支払いを滞納。父スペンサーの遺産も子供たちのために使われることはありませんでした。

1898年には、扶養料の未納問題が再燃し、救貧委員会が再び介入。チャールズはシドニーとチャーリーを引き取りますが、同棲していたルイーズという女性がシドニーを嫌ったため、2か月で再び離れることになります。酒浸りの生活を送るようになったチャールズは、肝硬変と浮腫を患い、1901年5月9日に38歳で亡くなりました。亡くなる数週間前には、成長したチャーリーと再会し、喜びを分かち合ったといいます。葬儀は弟のアルバートの援助によって行われ、トゥーティングの貧民墓地に埋葬されました。

チャールズ・チャップリン・シニアは、舞台俳優としての実績ではハンナを上回っていましたが、チャーリーに対する影響力においては、ハンナに及ばなかったと言えるでしょう。しかし、チャーリーは父について「黒い瞳のふさぎがちな物静かな男」と回想しており、その存在はチャーリーの心に深く刻まれていたことが伺えます。チャップリン研究家の大野裕之は、1952年製作の『ライムライト』でチャーリーが演じたカルヴェロの、特に酒浸りの部分はチャールズをモデルにしていると指摘しています。

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