チャールズ・W・エリオット

チャールズ・ウィリアム・エリオット

チャールズ・ウィリアム・エリオット（1834年3月20日 - 1926年8月22日）は、19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカ合衆国の高等教育界に多大な影響を与えた教育者です。特に、ハーバード大学の第25代学長として約40年間その地位にあり、同大学を近代的な研究型大学へと変革させた「エリオット改革」で知られています。

生い立ちと教育背景

エリオットは、ボストン有数の名家の出身として生まれました。祖父はボストン屈指の富豪であり、父は紡績事業を営む傍ら、ハーバード大学の財務担当理事やボストン市長を務めた人物です。母方の親族にもボストン市長経験者がいるという、地元で強い影響力を持つ家系に育ちました。名門ボストン・ラテン校を経て、1853年にハーバード大学を卒業後、同大学の職員としてキャリアをスタートさせました。

学長就任までの道のり

ハーバード大学で助教授まで昇進したものの、教授職への昇格は叶わず解任されるという挫折を経験します。しかし、祖父の遺産を元手に、1863年から妻子とともにヨーロッパへ渡航し、2年間にわたり各国の教育機関を視察しました。この経験が後の教育改革の着想に繋がったと考えられています。帰国後、新設されたマサチューセッツ工科大学（MIT）で化学教授の職を得ますが、1869年に雑誌に寄稿した教育改革に関する論考が注目を集め、その後のキャリアを決定づけることになります。

当時のハーバード大学理事会では、大学改革を目指す勢力と現状維持を望む保守派の間で対立が続いており、この論争を経て、改革派の後押しもありエリオットは1869年にハーバード大学学長に選出されました。

革新的なエリオット改革

1869年から1909年まで約40年間にわたって学長を務めたエリオットは、在任中にアメリカの高等教育のあり方を根本から変える「エリオット改革」を推進しました。それまでのアメリカの大学教育は、決められた必修科目を暗記・復唱することが中心であり、画一的な内容でした。エリオットはこれに対し、多岐にわたる改革を実施しました。

カリキュラムの自由化: ほとんどが必修科目だった教育課程を大胆に見直し、学生が自らの興味や目標に応じて科目を選択できる自由選択制を導入しました。これにより、学生はより多様な分野を深く学ぶ機会を得られるようになりました。
教員陣の刷新と強化: 高齢の教員に対しては、退職年金制度を導入することでスムーズな世代交代を促しました。同時に、国内外から高い学術的評価を持つ研究者を積極的に招聘し、大学の研究水準と教育の質向上を図りました。
* 学生規則の緩和: 学生に対する厳しい規制も見直されました。例えば、それまで強制だった朝の礼拝への出席義務を撤廃し、宗教の自由を尊重しました。また、上級生に対しては授業の出欠席にある程度の自由を与えるなど、学生の自主性を重んじる姿勢を示しました。

これらの改革は、教師と学生の関係性を改善し、大学の活気を高めたと評価される一方で、必修科目の減少や専門化の進展に対する批判も存在しました。歴史家サミュエル・モリソンは、自身の著作『ハーバード大学の三世紀』の中でエリオットの改革に対する批判的な見解を示しています。

他大学への影響と退任後

エリオットの影響力はハーバード大学内に留まりませんでした。特に、研究中心型の大学モデルを追求していたジョンズ・ホプキンス大学の設立に際しては、委員会に助言を行うなど関与しています。ジョンズ・ホプキンス大学が研究大学として台頭すると、エリオットはハーバード大学にも研究重視の姿勢を取り入れ、学術研究の重要性を高めました。

1909年に学長職を辞任した後、次期学長にはエリオットの改革に批判的だったアボット・ローレンス・ローウェルが就任しました（これは前任者が後任選定に関与しないという当時の慣例によるものです）。学長退任後も教育界への貢献を続け、一般向けの世界古典全集『ハーバード・クラシックス』全50巻を編纂しました。また、カーネギー国際平和基金の招きで、1911年から1912年にかけて日本と中国を訪問し、教育や文化交流に関心を示しました。

親族・関連人物

エリオットには、彼よりも約50年早くハーバード大学の改革を試みて失敗に終わったジョージ・ティクナーという先駆者がいました。エリオット自身がティクナーを「五十年早すぎた改革者」と評したと言われています。最初の妻エレン・ダービー・ピーボディとの間には息子のチャールズ・エリオット（環境デザイナー）がいます。妻はエリオットが学長に就任する直前に病死しており、彼は1877年に再婚しています。有名な詩人T・S・エリオットは彼のいとこにあたり、エリオットが学長を務めていた時期にハーバード大学で学んでいます。

チャールズ・ウィリアム・エリオットの学長在任期は、ハーバード大学のみならず、アメリカの大学教育全体が変革期を迎えた時代でした。彼の推進した改革は、現代の多様で専門的な大学教育システムの礎を築いた功績として、今日でも高く評価されています。

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