チューレ (小惑星)

チューレ（279 Thule）は、太陽系の小惑星帯、特にその外縁部に位置する比較的大きな天体です。1888年10月25日にオーストリアのウィーンで、天文学者ヨハン・パリサによって発見されました。その名称は、古来ヨーロッパにおいて世界の果て、極北の地とされた伝説の島『トゥーレ』に由来します。

チューレは、化学組成の推定に基づく分類ではD型と呼ばれる種類に属しています。これは、有機物に富むケイ酸塩、無水ケイ酸塩、そして炭素質の物質から主に構成されていると考えられていることを示しています。

特異な軌道

チューレの最も注目すべき特徴は、その独特な軌道にあります。一般的な小惑星帯の天体とは異なり、チューレは巨大惑星である木星と4:3の軌道共鳴という特殊な関係にあります。これは、チューレが太陽の周りを4回公転する間に、木星が太陽の周りをちょうど3回公転するような周期で軌道を回っていることを意味します。

木星との4:3共鳴軌道を持つ小惑星自体は他にも存在しますが、チューレを際立たせているのは、その極めて小さい離心率です。離心率とは軌道の「ゆがみ」を示す値であり、0に近いほど円に近い軌道となります。多くのメインベルト小惑星、特に同じく木星と共鳴関係にあるヒルダ群などが比較的平均的な離心率を持つ中、チューレの離心率は非常に小さく、具体的には木星の軌道より小さく、地球の軌道よりわずかに大きい程度という独特な値を示します。このような、木星との4:3共鳴を保ちつつ極めて低い離心率を持つ小惑星は、現在のところ他にはほとんど知られていません。

軌道の起源に関する考察

チューレのような特異な軌道がどのようにして形成され、現在まで維持されているのか、その起源についてはまだ明確な答えが得られていません。一部の天文学者は、チューレ、太陽、木星の現在の位置関係と重力的な相互作用によって、必然的にこのような安定した軌道が維持されているという可能性を指摘しています。この考え方は、小惑星帯に特定の軌道を持つ天体が存在しない領域として知られる「カークウッドの空隙」が形成されるメカニズムと同様の物理法則に基づいています。他の小惑星は、初期の軌道がわずかに異なったために、チューレのような低い離心率での安定した共鳴状態に至らなかったと推測されています。

観測事例

近年では、チューレに関する観測も行われています。2008年4月には、日本の関東地方や北陸地方で、チューレが恒星の前を通過することで星の光を一時的に遮る「掩蔽」現象が観測されました。この観測は、チューレの正確な大きさや形を知る上で貴重な情報を提供します。また、同年に行われたチューレの明るさの変化（ライトカーブ）の観測からは、チューレに衛星が存在する可能性も指摘されています。

チューレ群

チューレは、その特異な軌道ゆえに、現在のところ単独で「チューレ群」という小惑星のグループを構成しているとされています（ただし、資料によってはもう1個の小惑星を含めて2個とするものもありますが、その詳細は不明です）。木星と4:3共鳴状態にある小惑星は、チューレの他にも(3552) ドン・キホーテや(20898) Fountainhillsなどが発見されています。しかし、これらの小惑星はチューレとは対照的に、離心率が非常に大きく、ドン・キホーテに至っては地球の軌道に近づくこともある地球近傍小惑星にも分類されるほどです。

発見から長い年月が経ちますが、チューレはその独特な軌道と起源の謎から、今なお研究対象として興味深い天体であり続けています。

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