チョウジザクラ

チョウジザクラ（丁字桜）

チョウジザクラ（学名: Cerasus apetala var. tetsuyae）は、バラ科サクラ属の落葉低木、または小高木です。日本の固有種であり、主に東北地方南部から本州の太平洋側にかけて分布しています。山地に自生し、ひっそりと美しい花を咲かせる野生の桜です。

名前と特徴

和名の由来は、花の萼筒が細長く伸び、横から見ると「丁字」の形、または香辛料の丁子（クローブ）に似ていることにちなみます。別名としてメジロザクラとも呼ばれます。

樹高は6～7m程度と、他の桜に比べて小ぶりです。幹は根元からよく枝分かれし、樹皮は灰褐色で横長の皮目が見られます。一年枝は紫褐色で、灰色の毛が多く、皮目が点在します。この樹皮は、樺細工のような工芸品の材料としても利用されます。

花期は3月下旬から4月にかけてで、白から淡い紅色の一重の花を咲かせます。花びらは小さく、花全体の大きさは2cm前後です。花はほぼ180度まで平らに開き、萼筒が長く伸びるため、横から見ると名前の由来である丁字の形がよくわかります。花はうつむき加減に咲くことが多いです。

葉は細長い楕円形で、葉の縁は深く切れ込んだ重鋸葉となっており、マメザクラに似ています。葉の表面には毛が生え、秋には紅葉して落葉します。

冬芽は小さく卵形で、無毛の芽鱗に覆われています。枝の先端に頂芽がつき、側芽は互い違いに配置されます。葉痕は三角形または三日月形で、維管束痕が3つ見られます。

分布と生育環境

チョウジザクラは、本州の東北地方南部から太平洋側にかけて分布し、九州の熊本県にも一部見られます。山地を好み、谷川沿いの岩場など、厳しい環境でも生育できます。石灰岩地にも自生します。

チョウジザクラ群

チョウジザクラに似た種類や、その変種とされる桜は「チョウジザクラ群」として分類されます。チョウジザクラ自体は、観賞用としての価値はあまり高くありませんが、チョウジザクラ群の中には、庭木として好んで植えられるものもあります。

野生種

チョウジザクラ（Cerasus apetala var. tetsuyae）
ミヤマチョウジザクラ（Cerasus apetala var. apetala）：中央アルプスから南アルプスにかけて分布する深山型。
オクチョウジザクラ（Cerasus apetala var. pilosa）

種間雑種

オオミネザクラ（Cerasus ×oneyamensis）：オクチョウジザクラとオオヤマザクラの自然雑種。
チチブザクラ（Cerasus ×chichibuensis）：チョウジザクラとエドヒガンの自然雑種。
ニッコウザクラ（Cerasus ×tschonoskii）：チョウジザクラとカスミザクラの自然雑種。
ナルサワザクラ（Cerasus ×yanashimana）：チョウジザクラとヤマザクラの自然雑種。ハナイシザクラを含む。

園芸品種

オオオクチョウジザクラ
キクザキオクチョウジザクラ（Cerasus apetala var. pilosa f. multipentala）：ヒナギクザクラとも呼ばれ、チョウジザクラ群の園芸品種の親となっていることが多い。
シキザキチョウジザクラ

その他

観賞用として積極的に植えられることは少ないですが、他の桜との交配親として、品種改良に利用されることがあります。また、タカサゴという品種は、チョウジザクラとサトザクラを両親に持つことが知られています。

ひっそりと山に咲くチョウジザクラは、日本のサクラの多様性を物語る貴重な存在です。

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