マメザクラ

マメザクラ (豆桜)

マメザクラ（学名: Cerasus incisa）は、バラ科サクラ属の落葉低木で、日本の固有種です。日本に自生するサクラ属の基本野生種の一つであり、関東地方から中部地方、近畿地方にかけて分布しています。特に富士山周辺や箱根近辺に多く自生していることから、フジザクラやハコネザクラとも呼ばれます。名前の通り、樹高が低く、花も小さいのが特徴です。

名称

和名である「マメザクラ」は、他のサクラに比べて全体的に小型であることに由来します。別名の「フジザクラ」は、富士山周辺に多く見られ、花が白色を帯びて小さいことから名付けられました。

分布・生育地

マメザクラは、本州の関東地方西南部、山梨県、長野県、静岡県に分布し、特に富士山周辺に多く見られます。山地や丘陵地に自生し、亜高山気候の場所でも生育可能です。一般的なサクラよりも寒さに強く、-20℃にも耐えることができます。

特徴

マメザクラは、落葉広葉樹の小高木で、樹高は3〜8m程度になります。平均的な樹高は4m程度、太さは10cm程度ですが、伊豆半島に自生するものは、例外的に樹高6m以上、太さ20cmほどに大型化するものもあります。幹は下部から枝分かれすることが多く、細い枝を長く伸ばします。樹皮は暗灰色で、横長の皮目があります。一年枝は濃灰褐色で、ほぼ無毛です。

葉は互生し、長さ2〜5cmの倒卵形から卵形で、サクラ類の中でも小さいです。葉縁は鋸状で、切込みが深い重鋸葉があります。

花期は3〜5月で、樹高2m程度でも開花します。花は葉よりも早いか同時に、直径20〜25mmほどの5弁花が下向きに咲きます。花色は淡紅色から白色を帯び、サクラの中でも小さい部類に入ります。萼筒は紅褐色をしています。果期は5〜6月で、実は赤黒く熟します。

冬芽は枝先に頂芽がつき、枝に側芽が互生します。頂芽・側芽ともほぼ同型で、褐色の卵形で、芽鱗6〜9枚に包まれています。冬芽もサクラ類としては小さいです。葉痕は三日月形や三角形で、維管束痕は3個見えます。

マメザクラは、個体ごとの変異が大きいのが特徴です。これは、栄養や気候の厳しい亜高山帯でも子孫を残せるように変化したと考えられています。サクラは種間雑種を作りやすいですが、マメザクラは特にその傾向が強く、多くの栽培品種の基となっています。通常、自生しているサクラの種間雑種は個体単位に過ぎませんが、マメザクラとの種間雑種では、集団で群生して安定して自生している場合があります。例えば、四国の石鎚山に分布するイシヅチザクラは、マメザクラとタカネザクラの種間雑種で、両者の中間的な形態をしており、集団で群生しています。

利用

マメザクラは、あまり大きくならないサクラとして、庭木に好まれます。大きく育たなくても花を咲かせるため、庭木や盆栽として非常に有用です。この特徴から、コヒガン系などの多くの栽培品種の基となってきました。

変種と分布域

マメザクラには、以下の3つの変種があります。

マメザクラ (変種): 南関東から中部にかけて分布し、富士山周辺に大きな群落を作っています。別名「フジザクラ」はこの変種を指します。標高1000m以上の冷温帯から亜高山帯にかけての森林帯に自生し、火山性の岩石地に密集して群落を作ります。樹高は2m程度の低木です。一方、伊豆半島以東に分布するものは、標高1000m以下に自生し、房総半島などでは海岸近くにも見られます。これらの個体は変異が大きく、産地ごとに花色や花形、葉や萼筒に違いがあります。
キンキマメザクラ (近畿豆桜): 本州中部以西の北陸から近畿にかけて分布し、主に日本海側の山地に自生します。変種のマメザクラと同様に個体による変異が大きく、北陸地方に分布するものは花が大輪で白色、長野県南部や京都府大江山のものは花が小輪で淡紅色のものが多いです。
ブコウマメザクラ (武甲豆桜): 奥多摩・秩父・妙義山に分布し、石灰岩地に自生することが多いです。絶滅危惧種に指定されており、個体数は少ないです。

マメザクラ群

マメザクラは、種間雑種を作りやすいことで知られています。マメザクラとオオシマザクラの種間雑種であるウミネコは、日本国外でよく栽培されています。また、マメザクラとエドヒガンの種間雑種であるコヒガン系は、多くの栽培品種があります。マメザクラ群は、マメザクラ系とタカネザクラ系に分けられる場合があります。

野生種

マメザクラ (豆桜)
キンキマメザクラ（近畿豆桜）- マメザクラの変種
ブコウマメザクラ（武甲豆桜）- マメザクラの変種

種間雑種

コヒガン（小彼岸）系 - マメザクラ × エドヒガンの種間雑種。コシノヒガン・ホシザクラ・ヤブザクラがコヒガンの品種とされる場合もあります。

栽培品種

アカネヤエ（茜八重）
アメダマザクラ（飴玉桜）- マメザクラ × ヤマザクラ × オオシマザクラの種間雑種
ウミネコ（海猫） - 主にヨーロッパで栽培されている栽培品種。
オシドリザクラ（鴛鴦桜・富士霞桜）
クマガイザクラ（熊谷桜・八重咲山彼岸） - キンキマメザクラの八重の栽培品種。
コジョウノマイ（湖上の舞）
ショウドウザクラ（勝道桜）- マメザクラ × オオヤマザクラの種間雑種の栽培品種
ショウドウヒガン（勝道彼岸）
ショウフクジザクラ（正福寺桜・正福寺枝垂・湯村枝垂・湯村）
フタカミザクラ（二上桜） - 1970年に二上山で発見された品種。
フユザクラ（冬桜・小葉桜） - 11月から12月の終わりごろまで花を咲かせることで知られる。
マナヅルザクラ（真鶴桜）
ミドリキンキマメザクラ（緑近畿豆桜） - キンキマメザクラの赤色色素が欠損した栽培品種。
ミドリザクラ（緑桜・緑萼桜）
ミドノヤエ（水土野八重）


マメザクラは、その可愛らしい姿と多様な品種から、多くの人に愛されています。

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