チレサウルス

チレサウルス：謎多き植物食恐竜

チレサウルス Chilesaurus は、チリで発見されたジュラ紀後期の恐竜です。全長約3.2mと推定され、発見されたホロタイプ標本は若い個体であったため、それよりも小型だったと考えられています。

独特の形態

チレサウルスの最も特筆すべき点は、その食性と身体構造です。獣脚類に分類されるものの、口元には薬さじ型の長い歯が並び、明らかに植物食性に適応した形態を示しています。これは、肉食恐竜の仲間としては非常に珍しい特徴です。さらに、植物食への適応は骨盤にも見られます。長大な腸を収めるための空間が確保されており、これは鳥盤類に見られる特徴と酷似しています。このため、化石発見当初は鳥盤類として分類される可能性も検討されました。

後肢は脛骨正面上部の隆起が小さいことから、高速で走ることが得意ではなかったと考えられています。一方、幅広い爪先は体重を支えるのに適しており、強靭な前肢は捕食者からの防御に役立ったと考えられます。第一指の爪は、基盤的竜脚形類のように外側に伸びているのも特徴的です。

発見と命名

チレサウルスの最初の化石、脊椎と肋骨は、2004年2月、当時7歳だったディエゴ・スアレス少年によって発見されました。彼はアイセン地区で、地質学者である両親と共に装飾用の石を探していた際に、偶然この化石を発見したのです。その後、2008年には複数の恐竜の種として報告された化石標本群が、実はチレサウルスのものだということが判明しました。

2015年、ノバスらによって模式種 Chilesaurus diegosuarezi が命名・記載されました。「チレサウルス」という属名はチリに由来し、「ディエゴスアレジ」という種小名は発見者であるディエゴ・スアレス少年への献名です。ホロタイプ標本（SNGM-1935）はトキ累層で発見され、チトニアン期の地層に属します。ほぼ完全な幼体の骨格ですが、後肢と尾の大部分は失われています。他に、いくつかのパラタイプ標本も報告されています。

分類上の議論

チレサウルスの分類は、古生物学者の間で活発な議論の的となっています。記載論文では、テタヌラ類の基盤的位置に分類されましたが、コエルロサウルス類、基盤的竜脚形類、そして鳥盤類の特徴を併せ持つため、テタヌラ類以下の下位分類は決定されていません。

2017年、BaronとBarrettはチレサウルスを基盤鳥盤類に分類し、鳥盤類が竜脚類よりも獣脚類に近縁であるとする系統樹を発表しました。しかし、翌年Müllerらは、BaronとBarrettの系統解析データセットを再検討し、チレサウルスは基盤鳥盤類ではなく、基盤竜脚形類であると主張しました。このように、チレサウルスの系統的位置は依然として議論の余地があり、さらなる研究が待たれています。

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