チンチョン女伯爵の肖像

チンチョン女伯爵の肖像

『チンチョン女伯爵の肖像』（La condesa de Chinchón）は、スペインの巨匠フランシスコ・デ・ゴヤによって1800年に描かれた肖像画です。この作品は、ボルボン朝の王族である第15代チンチョン女伯爵マリア・テレサ・デ・ボルボーン・イ・バリャブリガを描いており、現在はマドリードのプラド美術館に所蔵されています。

マリア・テレサの生涯

マリア・テレサは1780年、ルイス・アントニオ・デ・ボルボーン親王とアラゴンの貴族女性マリア・テレサ・デ・バリャブリガ・イ・ロサスのもとに生まれました。父ルイス・アントニオは国王フェリペ5世の息子でしたが、王位を狙うカルロス3世の逆鱗に触れたため、マリア・テレサやその兄弟姉妹は王室から排除される運命にありました。一家は隠遁生活を強いられ、父の死後、彼女は妹と共に修道院に送られることになりました。

1797年、マリア・テレサはカルロス4世の宰相マヌエル・デ・ゴドイと結婚。これによって彼女と家族の王室復帰が認められ、女侯爵および女伯爵の称号を取得します。この結婚は、彼女の不遇な状況を大きく変えるものでした。1800年には娘を出産し、その後兄と共にトレドへ逃れることになります。1824年にはパリで亡命生活を送り、4年間の闘病の末に生涯を閉じました。

制作背景

マリア・テレサの父であるルイス・アントニオは、ゴヤにとって重要な後援者の一人でした。そのためゴヤは1783年から1784年にかけて彼らを訪問し、数多くの肖像画を手掛けました。その中にはマリア・テレサの若き日の肖像も含まれていました。1799年10月、ゴヤは宮廷画家に任命され、国王夫妻やゴドイのために多くの作品を制作するようになります。『チンチョン女伯爵の肖像』もその一つであり、彼女や他の家族の肖像を通して、ゴヤの技術と感受性が表現されています。

作品の特徴

この肖像画では、妊娠中の21歳のマリア・テレサが描かれています。彼女は白いシフォンドレスを身にまとい、金色のアームチェアに腰かけています。髪飾りとして小麦の穂と緑の羽根を使い、両手には指輪をはめています。特に、左手にはダイヤモンドが、右手には夫ゴドイの肖像を含む大きな指輪が飾られています。

ゴヤは彼女の内気かつ空想的な側面を表現し、温かみのある色調で繊細さと優雅さを引き出しています。特に、手の指輪の描写においては、左手のダイヤモンドの輝きを巧みに強調する一方で、右手の肖像表現は粗い筆致で描かれています。このことが二人の関係を反映しているかのようです。

この作品が注目される背景には、マリア・ルイサとの往復書簡があり、彼女の妊娠や出産に関する内容が記されています。また、彼女が身に着けた小麦の装飾品は、豊穣を象徴し、特に古代ローマの女神ケレスに関連しています。

美術館の科学的調査によれば、ゴヤは既存のキャンバスの上にこの肖像画を描き、その過程で以前の下絵が隠されていることも確認されています。

来歴

この肖像画はチンチョン女伯爵とその子孫に所有された後、スエカ公爵夫妻に相続されました。最終的には2000年にビリャエスクーサ遺贈基金によりプラド美術館に購入され、現在も多くの人々に愛されています。

参考文献

• - 黒江光彦監修『西洋絵画作品名辞典』三省堂（1994年）
• - ホセ・マヌエル・マティーリャ、大高保二郎ほか監修『プラド美術館所蔵 ゴヤ ― 光と影』マヌエラ・メナ・マルケス「ゴヤ：光り輝く、魔術的な調和」読売新聞東京本社（2011年）
• - 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店（1960年）

ギャラリー

プラド美術館公式サイト - フランシスコ・デ・ゴヤ『チンチョン女伯爵』

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