ツァラー・レアンダー

ツァラー・レアンダー

スウェーデン生まれのツァラー・レアンダー（Zarah Leander, 1907年3月15日 - 1981年6月23日）は、その力強い歌声と存在感で、特に1930年代後半のドイツ映画界において絶大な人気を博した歌手であり女優です。本名をサラ・スティナ・ヘドベリといった彼女は、スウェーデンのカールスタードで生を受けました。

芸術家としての第一歩は、最初の結婚を経た後の1929年、歌手として踏み出されます。その後、1931年には映画の世界にも進出する傍ら、オペレッタ『メリー・ウィドウ』の主演を務め、その才能が広く認知されるようになりました。スウェーデン国内での活動でキャリアを積み重ねていたレアンダーに、国際的な飛躍の機会が訪れます。

1936年9月、ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で上演されたラルフ・ベナツキー作曲のミュージカル・コメディ『アクセル、天国の扉の前で』に出演した際、彼女は記録的な大成功を収めます。このウィーンでの舞台での熱狂的な成功が、ドイツの映画界関係者の目に留まりました。帝国映画院副総裁ハンス・ヴァイデマンと著名な映画監督カール・フレーリッヒが、彼女にドイツ映画への出演を強く働きかけたのです。

このオファーに応じたレアンダーは、同年中にドイツ最大の映画製作会社であるウーファ（UFA）と専属契約を結びます。この契約は、3本の映画への出演を確約し、さらに彼女自身がシナリオを選択できる権利まで与えるという、当時の異例ともいえる好条件でした。ウーファ社は、レアンダーを「新たなガルボ」、すなわち往年の大女優グレタ・ガルボに匹敵するほどのスターとして大々的に売り出す戦略を立てました。社の総力を挙げて展開されたプロモーション活動は功を奏し、彼女はドイツ国内外で大きな注目を集めます。

特に、後にハリウッドで「ダグラス・サーク」として知られるデトレフ・ジールク監督の映画『世界の涯てに』（1937年）に主演したことで、その人気は決定的なものとなります。この作品での演技と歌唱力が観客に深く印象付けられ、ツァラー・レアンダーは瞬く間にドイツ映画界の頂点に立つスターとなりました。その後も、『南の誘惑』（1937年）、『故郷』（1938年）、『さんざめく舞踏会の夜』（1939年）など、ウーファ製作の数々のヒット作に主演し、その地位を不動のものとしました。彼女のトレードマークとなった、憂いを帯びたメロディーを力強く歌い上げるスタイルは、当時の人々の心を捉えました。

第二次世界大戦中の1943年には一時スウェーデンに帰国しますが、終戦後、彼女は再びドイツへと戻り、芸術活動を再開します。戦後のドイツでは、主に歌手としての活動が中心となり、往年のファンはもちろん、新たな世代からも支持を得ながら、1970年代に至るまで精力的にステージに立ち続けました。映画の世界でも、晩年にイタリアとの合作映画『イタリア式愛のテクニック』（1966年）に出演するなど、キャリア晩年まで活動の幅を保ちました。ツァラー・レアンダーは、その独特な存在感と歌声で、激動の時代を生きた人々に感動を与え続けた、20世紀を代表するエンターテイナーの一人と言えるでしょう。

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