ツィゴイネルワイゼン

ツィゴイネルワイゼン：情熱と哀愁の旋律

パブロ・デ・サラサーテ作曲の『ツィゴイネルワイゼン』（Zigeunerweisen）作品20は、1878年に完成したヴァイオリンと管弦楽のための名曲です。スペイン生まれのサラサーテが、ハンガリー民謡や大衆音楽の旋律を巧みに織り交ぜ、情熱的で劇的な、そしてどこか物悲しい魅力を持つ作品に仕上げました。

作品の構成と特徴

この曲は、協奏曲のように3つの楽章で構成されています。演奏時間は約8分と比較的短めですが、その短い時間の中に、激しい情熱と深い哀愁が凝縮されています。

第1楽章 Moderato - Lento (ハ短調): 堂々とした旋律が、悲しみと力強さを同時に表現します。華麗な装飾音符が随所にちりばめられ、聴く者を魅了します。管弦楽の壮麗な響きとヴァイオリンの技巧的な演奏が見事に融合しています。
第2楽章 Un poco più lento (ハ短調): 逆付点のリズムが特徴的な、甘く切ない旋律が弱音器をつけたヴァイオリンによって奏でられます。この楽章は特に人気が高く、「ジプシーの月」というタイトルでポピュラーソングとしても知られています。ハンガリー民謡を直接引用している部分もあり、民族音楽的な要素が強く感じられます。
第3楽章 Allegro molto vivace (イ短調): 急速なテンポで幕を開ける最終楽章は、圧巻の技巧を要する部分です。通常のピチカート奏法だけでなく、技巧的な左手ピチカートも用いられ、ヴァイオリンの可能性を最大限に引き出しています。この旋律は、リストの『ハンガリー狂詩曲第13番』にも用いられていることで知られています。

出版と改訂

ライプツィヒのゼンフ社から出版されたオリジナル版は、後にジムロック社に買い取られましたが、ヴァイオリンパートはアウグスト・ウィルヘルミによる校訂版に差し替えられました。現在一般に入手可能な楽譜は、これらの版を基にしています。

サラサーテ自身の録音と謎の声

1904年には、サラサーテ自身によるヴァイオリンとフアン・マネンのピアノ伴奏による録音が残されています。この録音には、演奏中にサラサーテの声と思われる謎の呟き声が入っていることで有名です。この呟き声は、録音時間の制限と当時の録音技術の制約から生まれたものだと考えられています。

文化への影響

『ツィゴイネルワイゼン』は、その高い知名度と劇的な展開から、様々なメディアで活用されています。

フィギュアスケート: 羽生結弦選手、申雪/趙宏博組など、多くのトップスケーターがプログラムで使用しています。
映画・テレビ: 内田百閒の小説『サラサーテの盤』を原作とする鈴木清順監督の映画『ツィゴイネルワイゼン』は、この曲をモチーフに幻想的で異様な雰囲気を醸し出しています。また、テレビドラマやCMでは、悲劇的なシーンのBGMとして効果的に使用されるケースも多いです。吉本新喜劇など、喜劇的な場面で使用されることもあります。
テレビゲーム: 『ゼロヨンチャンプ』、『極上パロディウス』など、様々なゲーム作品にもBGMとして登場しています。

このように、『ツィゴイネルワイゼン』は、作曲されてから100年以上経った今でも、世界中で愛され、演奏され続けている不朽の名曲です。その情熱的で哀愁漂う旋律は、人々の心に深く刻み込まれ、これからも長く愛され続けることでしょう。

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