ツブ

ツブ（螺、小螺）とは

「ツブ」は、巻貝の古名であり、現代では主に食用とされる中型の巻貝を指すマーケットネームです。特定の種や分類群を指すものではなく、様々な貝が「ツブ」と呼ばれています。北海道ではアワビやサザエを除く巻貝漁業の総称として「ツブ漁業」という言葉も使われます。

概要

一般的に「ツブ」として流通しているのはエゾバイ科の貝で、特にエゾボラ属やエゾバイ属に属する中型から大型の寒流系の種が多いです。エゾボラは「マツブ（真つぶ）」、細長い形状で螺状の筋が明瞭な貝は「灯台ツブ」、沿岸の浅瀬で採れるヒメエゾボラやエゾバイなどは「磯ツブ」などと呼ばれます。また、モスソガイは「ベロツブ」「アワビツブ」、フジツガイ科のアヤボラは「毛ツブ」として販売されることがあります。

一方で、エッチュウバイやオオエッチュウバイなどは「バイ貝」や「白バイ」として販売されることが多いため、「ツブ」と「バイ」の区別は実物を見ないと難しい場合があります。標準和名が「バイ」と呼ばれる巻貝が「つぶ」や「海つぼ」という地方名で呼ばれることもあります。

「ツブ」という語の由来

「ツブ」という言葉は、巻貝の貝殻を壺に見立てたもので、「つぼ（壺）」と同源とされています。また、粒立った形から「粒」に由来するという説や、「つぶら（円ら）」と同源であるという説もあります。古名は「つび（螺）」であり、女陰を指す「つび（𡱖）」から転じたという説もあります。

巻貝を指す「ツブリ」や「ツボ」も同源と考えられています。「ツブリ」はサツマツブリなどに用いられる土俗的な名称で、やや縦長や紡錘型の貝を指すことが多いです。「ツボ」はリソツボやチャツボのように、微小な貝の標準和名に使われることが多く、小さい粒の連想から来ていると考えられています。

「螺」の字を「ニシ」と訓読みすることもあり、こちらも巻貝の総称を指します。特にアカニシを指すことが多いです。

調理法

ツブの肉はアワビやサザエに比べて柔らかく、適度な歯応えとほのかな旨み、甘みがあります。北海道では、中身を取り出して内臓と唾液腺を除き、貝殻に戻して焼く「焼き螺（やきつぶ）」が代表的な調理法です。その他、串焼き、付け焼き、ぬた、塩茹で、和え物、おでんなどにも使われます。刺身や寿司にもよく用いられ、回転寿司などではヨーロッパエゾバイなどが使われることが多いです。

毒性

エゾバイ科のツブは唾液腺にテトラミンという毒を含んでいます。唾液腺を除去せずに多量に食べると中毒症状を引き起こす可能性があります。症状としては、酒に酔ったような症状、視力低下、散瞳、頻脈などがあります。テトラミンは熱に強く、水溶性であるため、調理しても毒性は弱まらず、他の可食部や煮汁にも移行します。

映画『武士の一分』では、毒味役がツブ貝の毒にあたって失明する場面があります。また、細菌またはウイルス性の食中毒、特にA型肝炎防止の観点から、持ち帰り用寿司を販売する店では夏場にツブ貝の販売を自粛することがあります。

主な種類

「ツブ」と呼ばれる貝は非常に多岐にわたります。以下は市場でよく見られる種類の一例です。

フジツガイ科
アヤボラ
エゾバイ科
カガバイ
ヒモマキバイ
シライトマキバイ
スルガバイ
エゾバイ
クビレバイ
アキタバイ
エッチュウバイ
オオエッチュウバイ
ツバイ
ヨーロッパエゾバイ
オオカラフトバイ
モロハバイ
ネジボラ
ヒメエゾボラ
チヂミエゾボラ
アツエゾボラ
エゾボラモドキ
ヒメエゾボラモドキ
クリイロエゾボラ
エゾボラ
カラフトエゾボラ
ウネエゾボラ
モスソガイ
バイ科
* バイ

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