ツブリネア綱

ツブリネア綱（学名：Tubulinea、別名：ツブリナ綱）は、原生生物であるアメーボゾア門（Amoebozoa）に属する主要な系統の一つです。このグループには、一般によく知られているアメーバ属（Amoeba）をはじめ、硬い殻を持つナベカムリ属（Arcella）やディフルギア属（Difflugia）など、比較的サイズの大きいアメーバ類の多くが含まれています。

特徴

ツブリネア綱のアメーバの大きな特徴は、その独特な移動方法と仮足の形態にあります。前進する際には、多くの種が細胞体全体を円筒形に変形させるか、多数の円筒状の突起、すなわち仮足を作り出して移動します。これらの円筒形の構造内部では、顆粒を含んだ細胞質が一定方向に流れることで推進力を生み出します。他のアメーバ類に見られるような、細く尖った亜仮足（subpseudopodia）は通常形成されません。この円筒形になる性質や円筒状仮足の形成は、ツブリネア綱を他のアメーバグループから区別する重要な形質の一つとなっています。ただし、中にはこの移動様式が主ではない種も存在します。

分類

歴史的に見ると、アメーバ類の分類は形態観察に大きく依存していました。かつての古典的な体系では、ツブリネア綱に含まれる種は、肉質虫亜門（Sarcodina）の根足虫綱（Rhizopoda）の下で、アメーバ目（Amoebida、殻を持たない）、有殻アメーバ目（Testacida、殻を持つ）、プロテオミクサ目（Proteomyxida）といった異なるグループに分散して位置づけられていました。アメーバ研究の進展に伴い、仮足の形態や運動様式に着目した分類が試みられましたが、形態のみに基づく分類では、互いに近縁でない種が同じグループに入れられてしまう問題がありました。

2000年以降、遺伝子情報を用いた分子系統解析が広く行われるようになると、アメーバ類の系統関係が大きく見直されました。その結果、かつて葉状根足虫綱（Lobosea）に含まれていた「裸性葉状根足虫（殻を持たないアメーバ）」は全体としては単一のグループではなく、多系統であることが明らかになりました。そして、その多様な裸性アメーバの一部が、有殻アメーバと遺伝的に近縁であり、一つのまとまった系統を形成していることが判明しました。この単系統群が、新たにツブリネア綱（Tubulinea）として定義されました。分子系統に基づく現代の分類体系では、ツブリネア綱はアメーボゾア門内に位置づけられる主要な三つの系統（他にFlabellinea、Evoseaなど）の一つとされています。

2019年時点での主な下位分類は以下のようになっています。

コリキディア亜綱（Corycidia）
コリキダ目（Corycida）：柔軟性のある革状の外被（殻）を持つ有殻アメーバのグループです。
エキナメーバ亜綱（Echinamoebidia）
エキナメーバ目（Echinamoebida）：主に円柱形または扁平な形態を示し、種によっては棘のような短い亜仮足を持つこともあります。
エラルディア亜綱（Elardia）
真アメーバ目（Euamoebida）：外被を持たず、体全体が円柱状になりやすい、裸性アメーバの典型的なグループです。
レプトミクサ目（Leptomyxida）：細胞体が扁平に広がった網状の形態と、円柱状の形態の間で変化する性質を持つグループです。外被はありません。
ナベカムリ目（Arcellinida）：硬くて丈夫な殻に覆われた、代表的な有殻アメーバのグループです。

歴史

アメーバ類の分類学は長らくその形態、特に仮足の形や運動様式に焦点が当てられてきました。特に1960年代からは、アメリカの原生動物学者セオドア・ヤーン（Theodore Jahn）とユージーン・ボビー（Eugene Bovee）らがこのアプローチを主導し、既存の分類体系の大胆な見直しを進めました。彼らは、殻の有無にかかわらず管状の仮足を持つアメーバをまとめて扱う分類群として、1966年に「管形亜目」（suborder Tubulina）を提唱しました。この概念は、後のツブリネア綱と多くの点で一致しています。

しかし、こうした新しい分類体系が広く受け入れられるまでには時間がかかり、20世紀末頃までは、岩波生物学辞典など多くの図書で、葉状根足虫綱（Lobosea）を「裸性葉状根足虫亜綱」（Gymnamoebia、殻なし）と「殻性葉状根足虫亜綱」（Testacealobosia、殻あり）に二分する古典的な体系が主流でした。当時の裸性葉状根足虫亜綱には、分子系統的には大きくかけ離れた多様なアメーバが含まれていました。

2000年代に入り、分子系統解析が強力なツールとして登場したことで、この状況は大きく変わりました。裸性葉状根足虫が単一のグループではないこと、そして一部の裸性アメーバが有殻アメーバと遺伝的に非常に近い関係にあることが科学的に証明されたのです。この分子系統学的な知見に基づき、これらの近縁なアメーバ類を一つの系統としてまとめたグループが、「狭義のロボセア綱」（Lobosea sensu stricto）あるいはツブリネア綱（Tubulinea）と命名されました。

ツブリネア綱は、国際原生生物学会（International Society of Protistologists）が2005年に発表した、原生生物全体の新しい分類体系において正式に採用されました。以降、分子系統解析の結果を取り入れつつ、ツブリネア綱内部の分類体系も順次整理され、現在に至っています。

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