ツマグロヒョウモン

ツマグロヒョウモン（褄黒豹紋）

ツマグロヒョウモン（学名：Argyreus hyperbius）は、タテハチョウ科に属する美しい蝶の一種です。この蝶は主に熱帯および温帯地域に広く分布し、特に日本では南西諸島、九州、四国、本州で観察されることが多いです。1980年代まで近畿地方以西に限られていましたが、近年は北上し続けており、今では関東地方の一部や東北地方でも見ることができるようになっています。

特徴

成虫の大きさは前翅の長さが38から45ミリメートルと、比較的小型の蝶です。雌雄で翅の模様が顕著に異なります。雌は前翅の先端が黒地に白帯が特徴的で、その表面は多くの黒斑点で飾られています。翅の裏面は薄い黄褐色に少し濃い斑点がある一方、白帯に対応する部分も白くなっています。また、前翅の根元付近はピンク色をしており、全体的に鮮やかな色合いを持っています。こうした色彩は、カバマダラという有毒蝶に擬態していると考えられています。このため、飛び方も非常に優雅で、カバマダラに似た動きを見せるのが特徴です。カバマダラは日本ではまれにしか見られない蝶ではありますが、ツマグロヒョウモンはその優美さから多くの目を引きます。

一方で、雄の翅にはヒョウモンチョウらしい豹柄が施されており、後翅の外縁は黒く縁取られているため、他の種と見分けることができます。

分布

この蝶はアフリカ北東部からインド、インドシナ半島、オーストラリア、中国、朝鮮半島、日本までの広範囲に分布しています。このように広い分布は他のヒョウモンチョウ類が主に温帯から寒帯にかけて広がるのとは対照的です。

日本では、近年になってその分布域が拡大しています。特に、1990年代以降は関東地方南部や富山県・新潟県の平野部でも観察されるようになり、 2002年には関東地方北部での目撃情報も寄せられています。現在では、関東地方北部でもほぼ定着し普通種として存在しています。

生態

ツマグロヒョウモンの成虫は、平坦な草原や庭、空き地、道端など、身近な場所で比較的見つけやすい存在です。地域によって異なりますが、成虫は通常4月から11月の間に見ることができ、この期間に4回から5回ほど発生します。他の多くのヒョウモンチョウ類が年に一度の発生であるのに対し、この蝶は多化性という特性を持っています。冬は幼虫や蛹の状態で越冬します。

幼虫はスミレの仲間を食草としており、特に野生種だけでなく、園芸用のパンジーやビオラも好んで食べます。満腹になった幼虫は地面に降り、さらなる餌を求めて移動しますので、花壇の植物が被害に遭うことがしばしばあります。終齢幼虫は体長約30ミリメートルで、背中には一本の赤い筋が通っており、体全体は黒色で棘状の突起が見られます。これらの突起は体の前半部が黒、後半部は赤い根元に黒い先端を持つという特徴があります。見た目はとげとげしく危険そうですが、実際には柔らかく、刺したり毒を持ったりすることはありません。蛹は尾でぶら下がる形で、背中には金属的な光沢を持つ金色の突起が並びます。

ツマグロヒョウモンはその美しさと独特な生態が特徴の蝶であり、観察するには絶好の機会を提供してくれる存在です。

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