ツルアラメ

ツルアラメ（蔓荒布）

ツルアラメは、コンブ目コンブ科カジメ属に属する大型の褐藻の一種で、学名は Ecklonia cava ssp. stolonifera といいます。多年生の海藻であり、1本の茎の先端に葉がつき、その両縁から側葉が羽状に伸びるのが特徴です。茎の基部からは長い匍匐枝を伸ばし、そこから新たな藻体が生じて栄養繁殖を行います。葉の表面は通常、シワ状になっています。

特徴

ツルアラメの胞子体は、発達した付着器と茎（茎状部）、そしてその先端についた葉（葉状部）から構成されています。多年生であり、最大で5〜6年生き、長さは25〜150cmに達します。茎の基部から匍匐枝が横に伸び、所々から細い根枝が生えて基質に付着します。茎は円柱状で、直径3〜5mm、長さ5〜50cmになります。葉は帯状、披針形、長楕円形、円形など多様で、幅5〜30cm、長さ20〜100cm、基部はくさび形または円形です。葉面には不規則なシワが見られます。葉の両縁は時に羽状に伸びて側葉となり、側葉の縁には鋸歯状の突起があります。茎と葉には粘液腔道があり、茎では時に不規則な2列になります。

匍匐枝から新しい藻体が生じ、栄養繁殖を行います。近縁の褐藻とは異なり、ツルアラメは主に栄養繁殖によって安定的な群落の維持拡大を行っていることが報告されています。葉の両面には多数の遊走子嚢からなる子嚢斑を形成します。遊走子は着生して微小な糸状の配偶体となり、卵生殖を行います。

分布と生態

ツルアラメは、北海道南部から九州北部、韓国にかけての日本海沿岸に分布しています。低潮線付近から潮下帯のやや深場（通常、水深2〜35m）に生育します。若狭湾沖では水深199mの海底から採集された記録があり、海藻の最深記録とされることもあります。

ツルアラメは多年生であるため、サザエやアワビ、ウニ類などの藻食動物にとって重要な餌となります。ただし、ツルアラメ群落内にはキタムラサキウニやエゾアワビはほとんど認められないとされ、アラメやアントクメなど他のコンブ目藻類に比べてポリフェノール（フロロタンニン）を多く含み、これが忌避成分となっていることが報告されています。ツルアラメのポリフェノール含量は冬から春に少なく、夏から秋に多い傾向があります。

人間との関わり

東北地方から北陸地方の日本海側では、ツルアラメは食用とされることがあります。ただし、上記のようにポリフェノールを多く含み、苦味やえぐみの原因となるため、ポリフェノールの少ない冬から初夏にかけての若芽が利用されます。佐渡地方では、ツルアラメを刻んで煮たものを枠に入れて乾燥させ、「板アラメ」として販売しています。

ツルアラメに含まれるポリフェノールには、抗酸化作用や血糖上昇抑制作用が報告されており、これを利用した製品も販売されています。

一方で、ツルアラメは繁殖力が強く、匍匐枝から新たな藻体を形成して栄養繁殖を行うため、1990年代よりマコンブやワカメなど商品価値の高い海藻の漁場に侵入し、その成長を阻害することが報告されるようになりました。被害を受けた大間町（青森県）の漁協では、駆除と活用の両面から食用海藻としての利用が進められ、2010年には23トンが販売されています。

分類

ツルアラメは、岡村金太郎によってカジメ属の新種 Ecklonia stolonifera として記載されました。ツルアラメに類似したカジメ属の種としてクロメやカジメがありますが、匍匐枝を持つ点で区別されます。しかし、遺伝子解析からは、ツルアラメとクロメ、カジメの間の形態的差異は、遺伝的差異とは一致しないことが示されています。また、交配実験では、ツルアラメはクロメやカジメとの間で正常な胞子体が形成されたことが報告されています。そのため、ツルアラメとクロメはカジメの亜種とすることが提唱され、ツルアラメは Ecklonia cava ssp. stolonifera と命名されました。また、日本海側で形態的にクロメと同定される個体（匍匐枝を欠く）は遺伝的にはツルアラメを含む系統群に属することが示されており、このような個体に対しては Ecklonia cava var. kuromeoides として変種レベルで命名されています。

もう一度検索