ツンドラネネツ語

ツンドラネネツ語

ツンドラネネツ語は、ロシア北部のカニン半島からエニセイ川にかけての広大な地域で、ネネツ人によって話されているウラル語族サモエード諸語に属する言語です。森林ネネツ語とは相互理解が難しく、別言語として扱われることもあります。広範囲に分布しているにもかかわらず、方言差は比較的小さいのが特徴です。

現状

話者は全世代にわたり維持されており、子供たちへの継承も行われています。しかし、西部地域では、子供や若者を中心にロシア語やコミ語への言語交替が進んでいる地域も存在します。

音韻論

ツンドラネネツ語の音節構造は、一般的にCVC（子音-母音-子音）です。2つ以上の子音が連続する子音群は、語頭、語中、語尾のいずれにも現れません。通常、語は母音で始まることはありませんが、西部方言では/ŋ/が消失した結果、母音で始まる語も存在します（例：標準的なツンドラネネツ語のŋarka「大きい」は、西部方言ではarkaとなる）。

母音

ツンドラネネツ語には10個の母音音素がありますが、口蓋化によって17個の異音が生じます。母音の前舌性は、音韻的に区別されません。

また、⟨æ⟩という母音も存在し、[æ͡e̘]または[æː]と発音されることがあります。この母音と狭母音は、語頭音節にのみ現れます。

母音減少

ツンドラネネツ語の文献では、「減母音」という概念が言及されています。減母音は、強勢のある音節と強勢のない音節で異なる質を持ちます。強勢のある音節では⟨ø⟩と表記され、潜在的な母音の減少形を表し、強勢のない音節では⟨â⟩と表記され、/a/の減少形を表します。しかし、近年では、減母音が実は短母音であり、それぞれ長母音と対になっているという説が有力です。現在では、⟨â⟩は単に⟨a⟩で、⟨ø⟩は短母音として表記される傾向にあります（ただし、正書法では短母音とは明記されません）。

子音

ツンドラネネツ語には27個の子音音素があります。すべての両唇音と歯頂音は、非口蓋化音と口蓋化音を持ちます。

ふるえ音[r]は、話者によっては口蓋垂音[ʀ]または口蓋垂摩擦音[ʁ]として発音されることがあります。

すべての子音は語中の母音間に出現しますが、他の位置では出現が制限されます。

語頭には16個の子音が出現します。

音節末には、/b/, /ʔ/, /m/, /n ~ ŋ/, /l/, /r/の6つの子音のみが出現します。

連音

ツンドラネネツ語には、語中や語間（活用など）において、子音連結を単純化する連音のプロセスが存在します。これは、一部の子音音素が二次的に潜在的な子音連結から派生したことを示唆しています。

摩擦音の硬音化： 子音に先行する場合、摩擦音 /s/, /sʲ/, /x/ はそれぞれ破擦音・破裂音 /ts/, /tsʲ/, /k/ に変化します。
語末の非唇音の鼻音 /n/： 共鳴音に先行する場合に消失し、声門閉鎖音になります。語中では、/nj/ が生じることがあります。

正書法

ツンドラネネツ語の文字は、キリル文字にӇ ӈ, ʼ, ˮを加えた文字体系を使用します。

母音

口蓋化音は、非口蓋化音と区別して表記されます。

キリル文字の正書法では、減母音と/a/の区別、長母音/iː/、/uː/と、それに対応する短母音/i/、/u/の区別がありません。⟨æ⟩は口蓋化された環境では出現しないため、正書法には含まれていません。

シュワー（[ə]）に対応する文字はキリル文字には存在せず、ほとんどの場合表記されません。ただし、時折、⟨а⟩, ⟨я⟩, ⟨ы⟩, ⟨ӗ⟩, ⟨ŏ⟩のいずれかで不規則に表記されることがあります。

子音

キリル文字の正書法における子音は以下の通りです（口蓋化音は除く）。

⟨ˮ⟩は元来の声門閉鎖音を表し、⟨ʼ⟩は語末の/n/に由来する声門閉鎖音を表します。

ロシア語と同様に、口蓋化された子音は⟨ь⟩で表されます（例：/mʲ/は⟨мь⟩と表記）。ただし、口蓋化された母音が続く場合は⟨ь⟩は使用されず、代わりに⟨мё⟩のように表記されます。

文法

(文法の詳細な記述は省略)

文例

(世界人権宣言第1条)

Ет хибяри ненэць соямарианта хуркари правада тнява, ӈобой ненээя ниду нись токалба, ӈыбтамба илевату тара。

Et xibjari nenėc’ sojamarianta xurkari pravada tnjava, ṇoboj nenėėja nidu nic’ tokalba, ṇybtamba ilevatu tara.

すべての人間は、生まれながらに尊厳と権利において自由かつ平等である。人間は理性と良心を与えられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

参考資料

Salminen, Tapani (1997). Tundra Nenets inflection.
Salminen, Tapani (1998). A morphological dictionary of Tundra Nenets.
* Nikolaeva, Irina (2014). A Grammar of Tundra Nenets.

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