ツール・ド・フランス1986

ツール・ド・フランス1986：激動のドラマとアメリカ初の栄冠

1986年のツール・ド・フランスは、第73回目の開催であり、7月4日から7月27日まで全23ステージにわたって繰り広げられました。この大会は、前年の覇者ベルナール・イノーと、彼のアシストを受けたグレッグ・レモンとの間の確執、ローラン・フィニョンの不調、そしてアメリカ人初の総合優勝という、数々のドラマに彩られました。

大会の見どころ

前年、グレッグ・レモンの献身的なアシストを受け、5度目の総合優勝を果たしたベルナール・イノーは、今大会でレモンを総合優勝させると公言していました。しかし、この発言は、地元フランスのマスコミから「安易にアメリカ人にマイヨ・ジョーヌを譲るべきではない」と批判を浴び、イノーは途中で発言を翻す事態となりました。また、この年限りで引退をほのめかしていたイノーにとって、最後のツール・ド・フランス出場となりました。

一方、前年のツールを欠場し、総合3連覇の夢が潰えたローラン・フィニョンは、チームを移籍し、打倒イノー、レモンを掲げていました。さらに、「山岳王」の異名を持つルイス・エレラも、マイヨ・ジョーヌ獲得を狙っていました。また、この大会には、セブンイレブンが史上初のアメリカチームとして参加し、その中には、1980年のレークプラシッドオリンピックでスピードスケート全5種目制覇を果たしたエリック・ハイデンがいました。

大会の展開

イノー、レモンのラ・ヴィ・クレールは序盤で不調に陥り、2人の間に軋轢が生じているという噂が立ちました。対照的に、フィニョンは絶好調で、第2ステージのチームタイムトライアルで完勝。第8ステージ終了時点で、フィニョンはトップと49秒差の5位につけましたが、イノー、レモンは圏外でした。地元フランス人の関心は、フィニョンの復活優勝に集まっていました。

しかし、第9ステージの個人タイムトライアルで、イノーが区間優勝、レモンも区間2位に入ると形勢は逆転。フィニョンは3分42秒の差をつけられ、総合順位も12位に後退しました。さらに、ピレネーステージ緒戦の第12ステージで、イノーが区間優勝を果たしたペドロ・デルガドとほぼ同タイムでゴール、レモンも4分37秒差で続いたのに対し、フィニョンは11分1秒差で惨敗。イノーがマイヨを奪い、レモンが2位、フィニョンは15位と順位を落としました。

翌13ステージ開始前に、フィニョンの棄権が発表され、彼は大会から姿を消しました。最大のライバルがいなくなったことで、ラ・ヴィ・クレールの2人にとっては、あとはクライマーを抑えるだけとなりましたが、レモンがクライマーたちの力を利用して第13ステージを優勝。イノーとのタイム差も40秒差にまで縮まりました。

この時点でレモンのマイヨ獲得はほぼ確実となりましたが、イノーが簡単にマイヨを譲らないとマスコミに漏らしたことから、2人の間に軋轢があることが明らかになりました。レモンがマスコミに食って掛かったり、イノーを公然と批判するシーンも見られました。

しかし、アルプスステージに入ると、2人の関係は一転します。第17ステージでレモンがクライマーを自らの手で抑え、ついにイノーからマイヨを奪ったのです。この時点でイノーはレモンには勝てないと悟り、マイヨ・ジョーヌをレモンに「禅譲」することを決意。第18ステージのラルプ・デュエズのゴールでは、レモンとイノーが手をつないでお互いを讃えあうという感動的なシーンが見られました。

その後、レモンはマイヨを守りきり、ツール・ド・フランス史上初のアメリカ人優勝者となりました。

その他の出来事

長年にわたりツール・ド・フランスで活躍してきたヨープ・ズートメルクにとって、この大会が最後のツール出場（総合24位）となり、翌年引退しました。

1986年のツール・ド・フランスは、数々のドラマと興奮に満ちた大会として、その名を歴史に刻みました。

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