ツール・ド・フランス1990

ツール・ド・フランス1990：波乱と戦略が交錯した激闘の記録

1990年のツール・ド・フランスは、第77回目の開催として、6月30日から7月22日まで全21ステージにわたり繰り広げられました。前年、奇跡的な逆転優勝を果たしたグレッグ・レモンは、世界選手権も制覇し、Zチームに移籍して連覇を目指して参戦しました。

レモン包囲網と序盤の苦戦

しかし、序盤から「レモン潰し」とも言える激しいアタックが繰り広げられ、レモンは早くも苦境に立たされます。第5ステージでは、スプリンターたちが果敢にアタックを仕掛け、前年に逆転負けを喫したローラン・フィニョンがリタイア。レモンもこのステージだけで4分30秒の遅れをとり、マイヨ・ジョーヌ争いから大きく後退しました。

第7ステージの個人タイムトライアルでも、レモンは区間7位と振るわず、マイヨ・ジョーヌのスティーブ・バウアーに対し、10分9秒差の7位と低迷。一方、カレラのクラウディオ・キアプッチが区間3位と健闘し、存在感を示しました。

アルプス越えとキアプッチの台頭

第9ステージからアルプスステージが始まり、山岳レースが続きます。第10、11ステージを経て、レモンは総合3位まで浮上するものの、マイヨ・ジョーヌのロナン・パンセとはまだ9分4秒差がありました。対照的に、キアプッチは1分28秒差の総合2位につけ、射程圏内へと迫ります。

第12ステージの個人タイムトライアルでは、エリック・ブロイキンクが制し、レモンは56秒差の区間5位。キアプッチが1分5秒差の区間8位となり、ここでマイヨ・ジョーヌはキアプッチへ移動。パンセは1分17秒差の総合2位、ブロイキンクが6分55秒差の総合3位で続きます。レモンは7分27秒差の総合4位と、依然として厳しい状況が続きました。

レモン、ブロイキンクの反撃とキアプッチの失速

しかし、続く第13ステージで、レモンとブロイキンクがキアプッチ潰しに出たことが功を奏します。両者は区間優勝のエドゥアルド・チョザスと同タイムでゴール。キアプッチは4分53秒の遅れを喫し、この時点でブロイキンクが2分2秒差の総合2位、レモンが2分34秒差の総合3位と、一気にタイム差を縮めました。

そして、第16ステージ。レモンは会心の走りを披露し、区間優勝のミゲル・インドゥラインにわずか6秒差の区間2位でフィニッシュ。総合2位に浮上し、キアプッチとの差をわずか5秒差にまで縮めます。

最終決戦、そしてレモンの勝利

最終決戦となった第20ステージの個人タイムトライアル。この区間はブロイキンクが制しましたが、レモンは57秒差の区間5位。キアプッチは3分18秒の大差をつけられ、ここでレモンがキアプッチに2分16秒差をつけてついにマイヨ・ジョーヌを奪取します。そして、そのまま逃げ切り、総合2連覇を達成しました。

特筆すべきは、レモンが今大会で一度も区間優勝を果たしていない点です。これは、彼が総合優勝のために、ライバルたちの動きを冷静に見極め、戦略的にレースを進めた結果と言えるでしょう。

1990年のツール・ド・フランスは、レモンの戦略的な勝利と、ライバルたちの激しいアタックが絡み合った、記憶に残る大会となりました。

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