ティエリー・サビーヌ

ティエリー・サビーヌ：パリ・ダカールラリー生みの親の波乱に満ちた生涯

ティエリー・サビーヌは、1949年6月13日、フランスで生まれたカーレーサー、ラリースト、そして実業家です。彼の名は、世界で最も過酷なラリーとして知られるパリ・ダカールラリーの創設者として、モータースポーツ史に深く刻まれています。

サビーヌの父は歯科医で、自身もラリーに参戦経験を持つジルベール・サビーヌでした。その影響を受け、サビーヌは1969年、父をナビゲーターに迎え、トゥーケナショナルラリーでラリーデビューを果たします。アルピーヌA110を駆り、その後はバーナード・サレらと共に国内外のラリーで活躍、欧州ラリー選手権にも参戦しました。アルピーヌA110やポルシェ911、フォード・カプリといったマシンを操り、黎明期にあったラリーレイドにもバイクで挑戦しました。さらに、ル・マン24時間レースにも参戦し、1975年にはクラス3位で完走するなど、幅広いモータースポーツに携わっていました。

1977年、ニースからアビジャンを繋ぐ「コート-コート・ラリー」に参加した際、リビア砂漠で遭難するという経験をしました。水と食料、燃料を失い、バイクを捨てて3日間迷子になり、瀕死の状態に陥ります。捜索も打ち切られかけた絶望的な状況の中、主催者のジャン＝クロード・ベルトランの小型飛行機によって救助されました。この経験は、サビーネにとって苦い思い出というよりは、アフリカの広大な砂漠の魅力を再確認する大きな転機となりました。

サビーヌはすでにレースオーガナイザーとしての活動も始めており、1974年にはラリー・ドゥ・トゥーケ（後のティエリー・サビーヌ・クラシック）を創設しています。そして1978年には、トゥーケを起点とするバイクのラリーを企画。これらの経験を活かし、彼は新たなラリーレイドの開催を構想します。それが、彼のモットーである「行く者には挑戦を。残る者には夢を」を体現した、パリ・ダカールラリーです。1978年末から1979年初頭にかけて開催されたこのラリーは、ベルトランの計画が頓挫した流れを汲むものでもあり、偶然にもサビーヌが彼の意志を受け継ぐ形となりました。その後、パリ・ダカールラリーは世界的なモータースポーツイベントへと成長を遂げます。

サビーヌは、参加者への細やかな気配りでも知られていました。1983年の大会では、テネレ砂漠で発生した砂嵐により40人の競技者が迷子になった際、4日間ヘリコプターとセスナを飛ばし、上空から全員を救出しました。この行動は、競技者から神のような存在として称えられるほど高く評価されています。

しかし、1986年1月14日、ダカールラリー開催期間中のマリで、ヘリコプター事故により、サビーヌは5名全員が死亡しました。事故の詳細は不明な点が多く、諸説が飛び交っています。彼の死は、世界中に衝撃を与えました。テネレ砂漠には、彼を偲んで石碑が建てられています。

サビーヌの死後も、彼の冒険精神と功績は多くの者によって引き継がれ、2009年のダカールラリーの南米移転後には、彼の足跡をたどるアフリカ・エコレースが創設されました。彼の父、ジルベールは、サビーヌの会社TSOを継承し、パリ・ダカールラリーの運営に携わりましたが、高齢のため1994年にASOに売却しました。

ティエリー・サビーヌは、数々の困難を乗り越え、世界を熱狂させたラリーを生み出しただけでなく、その人となりでも人々に深い印象を与えた、偉大なモータースポーツ界のレジェンドでした。彼の情熱と冒険心は、今もなお、多くの人々にインスピレーションを与え続けています。

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