ティテュオス (ティツィアーノ)

ティツィアーノ作『ティテュオス』：神話と絵画の融合

ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1565年頃に描いた油彩画『ティテュオス』は、ギリシア神話に登場する巨人を題材にした作品です。この作品は、神聖ローマ皇帝カール5世の妹であるハンガリー女王マリア・フォン・エスターライヒの依頼で制作された連作《地獄に堕ちた者たち》の一部です。連作は『シシュポス』、『タンタロス』、『イクシオン』の3作品で構成されていますが、現在確認できるのは『ティテュオス』と『シシュポス』の2作品のみです。

神話に基づく主題

ティテュオスは、大地から生まれたとされる巨人です。彼は女神レトに欲情し、略奪しようと試みましたが、レトの息子であるアポロンとアルテミスによって射殺されました。その不遜な行為により、ティテュオスは冥府で永遠の罰を受けることになります。その罰とは、2羽の鷲が彼の肝臓を啄み続けるというものです。

制作の背景

この連作は、カール5世がプロテスタントのザクセン選帝侯に勝利した翌年に、マリア女王がバンシュ宮殿の装飾のためにティツィアーノに依頼したものです。この連作の意図は、神に反抗する者たちの末路を描くことで、当時の支配者（カール5世）に反抗する人々（プロテスタント）の運命を暗に示すことでした。完成した大ホールには、ティツィアーノの連作をはじめ、神々に挑んだ者の末路を描いた絵画やタペストリーが飾られていました。

作品の詳細

『ティテュオス』では、冥府で罰を受ける巨人の姿が描かれています。ティテュオスの手足は岩に鎖で繋がれ、巨大な体躯がごつごつした岩場に横たわっています。彼の身体には巨大な鷲がとまり、鉤爪で巨人の身体に食い込んでいます。鷲はティテュオスの腹部を切り裂き、内臓を啄んでいます。ティツィアーノは短縮法を用いることで、苦悶する巨人の姿を際立たせています。この短縮法の使用は、ティツィアーノの他の作品ではあまり見られない特徴です。また、画面の右下には蛇が描かれており、ティテュオスの否定的な性格を暗示しています。

図像的源泉

図像的な源泉として、ミケランジェロ・ブオナローティが1532年に制作した素描『ティテュオス』が挙げられます。ミケランジェロの素描は多くの模倣者を生み出し、その影響は非常に大きいものでした。ティツィアーノも、ニコラス・ベアトリゼのエングレービングを通じてミケランジェロの素描を知っていたと考えられます。しかし、ミケランジェロはティテュオスの身体が鷲によって傷つけられる瞬間を描いているのに対し、ティツィアーノは鷲が肝臓を啄むシーンを描いているという点で違いがあります。

文学的源泉

文学的な源泉としては、2世紀のアレクサンドリアの作家アキレウス・タティウスの小説『レウキッペとクリトフォン』に登場する絵画『プロメテウス』のエクフラシスが指摘されています。ティテュオスの罰は、火を盗んだプロメテウスが受けている罰と非常によく似ています。ティツィアーノは、このエクフラシスから、鷲の鉤爪や嘴、痛みに悶える巨人の姿などの要素を引き出したと考えられます。

作品の来歴

連作は1549年にバンシュ宮殿に届けられ、その後、1554年にフランス軍による略奪を避けるため、ブラバント公爵の城に移されました。その後、スペインのシガレスに運ばれ、マリア女王の死後、スペイン王室のコレクションに加わりました。その後、1734年の火災で『タンタロス』と『イクシオン』が焼失し、残った『ティテュオス』と『シシュポス』はプラド美術館に所蔵されています。

修復と再評価

1734年の火災を生き残った『ティテュオス』と『シシュポス』は、保存状態が悪く、長らく複製品だと考えられていました。しかし、2003年の修復によって、両作品のティツィアーノによる処理に違いがあることが判明しました。美術史家ミゲル・ファロミール・ファウスは、この点を指摘し、本作品は1560年代に描かれた複製であると結論付けました。

『ティテュオス』は、神話の物語を力強く、かつ鮮やかに表現した傑作として、現在も多くの人々を魅了し続けています。

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