ティヴォリのエステ家別荘

ティヴォリのエステ家別荘は、イタリアのティヴォリにあるエステ家が所有していた別邸であり、2001年にユネスコの世界遺産に登録されました。4.5ヘクタールもの広大な敷地には、約500もの噴水が設置され、特に「オルガンの噴水」や「百噴水」など、ギリシャ・ローマ時代のモチーフを取り入れた独創的なデザインが特徴です。後期ルネサンス期を代表する庭園として、その美しさは「イタリア一美しい噴水庭園」と称えられ、今日まで多くの人々を魅了しています。

歴史

ティヴォリは、ローマの東約30kmに位置する丘陵地帯にあります。穏やかな気候と豊かな自然に恵まれ、古代ローマ時代から上流階級の保養地として栄えてきました。

16世紀半ば、ランゴバルド人の血を引くエステ家の枢機卿、イッポーリト2世・デステは、教皇の座を巡る争いに敗れ、1550年9月にティヴォリでの隠遁生活を余儀なくされます。イッポーリト2世は、ベネディクト会の修道院だった建物を住居とし、その周囲に大規模な庭園を造営することを決意しました。

庭園の設計は、考古学にも造詣が深かったピーロ・リゴーリオが担当しました。1563年から1565年にかけて斜面の整地と、アニオ川から別荘内に地下水道を引き込む工事が行われました。1565年頃からは本格的な建築工事が開始されましたが、1572年にイッポーリト2世が死去した時点ではまだ完成には至っていませんでした。

その後、イッポーリトの甥であるルイージ・デステが別荘を引き継ぎましたが、彼の財力では維持が精一杯でした。1605年にはアレッサンドロ・デステの所有となり、レイアウトの変更を含む大規模な改修が行われました。1641年以降はモデナ公爵家の所有となり、維持管理が続けられました。しかし、18世紀に入ると別荘は放棄され荒廃してしまいましたが、1920年から1930年にかけて修復運動が行われ、その後の1944年の爆撃によってさらに損傷を受けたものの、修復が続けられています。

オルガンの噴水

オルガンの噴水は、エステ家別荘の象徴的な存在です。高所に貯めた水をパイプに通すことで、10メートル以上も吹き上がる噴水を完成させ、当時の噴水技術に革命をもたらしました。噴水自体の石造りの部分は、フランスの噴水技術者であるリュック・ルクレールとその甥のクロード・ヴナールによって1566年に建設が始まり、1571年に完成しました。

この噴水は、自動オルガン(自動演奏装置)の動力としても利用されています。この自動演奏装置の考案者も、ルクレールとヴナールです。高所から水を螺旋状に落下させることで空気を巻き込み、水槽の底に叩きつけることで水と空気を分離し、その水流でオルゴールのシリンダーを回す仕組みになっています。また、分離された空気はオルガンの鞴に送られ、音を出すための動力としても利用されています。

しかし、この機構は非常に繊細で、維持管理が難しく、17世紀には度々修復が行われましたが、18世紀には放置されてしまいました。その後、建設当時の技術を忠実に再現した新しい部品を使った修復が行われ、2003年にようやく再び音楽を奏でられるようになりました。現在では、午前10時30分から2時間おきに、1回4分の演奏が公開されています。

登録基準

エステ家別荘は、以下の世界遺産登録基準を満たしていると評価されています。

(1) 人類の創造的才能を表現する傑作であること。
(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すものであること。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠であること。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例であること。
(6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するものであること。

音楽との関連

フランツ・リストのピアノ曲集「巡礼の年第3年」には、この庭園をモチーフに作曲された3曲が収録されています。中でも《エステ荘の噴水》は、壮麗に吹き上げる噴水を表現した曲として知られています。エステ家別荘の美しい景観は、音楽家にもインスピレーションを与え、芸術作品を生み出す源泉となっているのです。

関連事項

ヴィッラ・アドリアーナ (ティヴォリ)
* 大追跡 (映画)

もう一度検索