テゴペルテ

テゴペルテ（Tegopelte）

概要

テゴペルテ（学名：Tegopelte）は、約5億年前、古生代カンブリア紀ウリューアン期に生息していた絶滅した節足動物の一属です。この生物は、カナダのブリティッシュコロンビア州にある有名なバージェス頁岩（バージェス動物群）から発見された化石標本に基づいて知られています。特に印象的なのは、その全身を覆う巨大で平たい楕円形の甲羅です。現在、この属にはTegopelte gigasという一種類のみが知られています。

名前について

学名「Tegopelte」は、古代ギリシャ語の「テゴス（τεγος）」、すなわち「タイル」や「覆い」を意味する言葉と、「ペルテ（πέλτη）」、すなわち「軽盾」や「毛皮」を意味する言葉を組み合わせて名付けられました。これは、本属が持つ平たくて広い背面の甲羅の形状に由来しています。模式種であるTegopelte gigasの種小名「ギガス（γίγας）」もまた、ギリシャ語で「巨大な」という意味を持ち、この生物が当時の生物としてはかなりの大きさに達したことを示しています。

化石記録

テゴペルテの明確な体化石は非常に稀で、カナダのバージェス頁岩、特にWalcott Quarry Shale Memberと呼ばれる特定の地層（Bathyuriscus-Elrathina Zoneに相当する約5億50万年前の地層）からのみ産出しています。2011年の時点では、腹側が保存されたわずか2点の標本しか発見されていません。ただし、同じバージェス動物群の別の地層（Kicking Horse Shale Member、Glossopleura Zoneに相当）からは、本属に由来すると考えられる足跡化石（生痕化石）が5点報告されており、この生物が海底を活発に移動していた証拠となっています。

形態

テゴペルテはカンブリア紀の生物としては驚くほど大型で、最大の個体では体長約28cm、横幅約14cmに達しました。その体は頭部と胴部に分かれていますが、背側を覆う外骨格は独特の構造をしています。頭部の背甲と胴部の複数の背板が完全に癒合し、縦長の楕円形をした一枚の巨大な甲羅を形成しています。この甲羅は硬化しておらず、比較的柔軟性があったと考えられています。前後の中央部分がわずかにへこんでいる以外は、縁辺部は非常に滑らかで、体節の境界線や棘状の突起はありませんでした。また、その背面には、近縁な他の生物に見られるような体節ごとの溝も存在しなかったとされています。かつては縁辺に見える線が体節の境界だと考えられたこともありましたが、現在の研究ではこれらは化石化の過程で生じた折り目であると解釈されています。

腹側には、頭部に一対の細長い水滴状の複眼が触角の付け根の左右に配置されていました。また、一枚の甲皮と一枚のハイポストーマ（口の後ろにある板状の構造）があり、これらはわずかに重なっています。先端が不明確な一対の触角は、甲皮とハイポストーマの左右から前方に突き出ていました。頭部から尾部にかけては、合計33対もの脚が並んでいました。脚は二叉型で、根本の原節から鰭状の外肢と歩行に適した内肢に枝分かれしていました。原節と内肢の前半部分は不明瞭な点が多いですが、外肢は2つの節からなり、後縁に多数の葉状構造（鰓として機能した可能性が高い）が並んでいました。内肢は先端の4節と爪のみが明確に知られています。体内構造としては、消化管の存在が確認されており、体節ごとにあるいは脚ごとに、消化腺が消化管の左右から枝分かれしていました。

生理と生態

テゴペルテは主に海底の表面を這い回る底生生活を送っていたと考えられています。足跡化石の研究からは、非常に多くの脚を協調させて、波打つようにして前進していた様子がうかがえます。すべての脚を常に接地させていたわけではなく、後方の数対（第26-33対）は短すぎて接地せず、残りの脚も8対おきに3対程度が同時に接地していたと推測されています。通常は比較的ゆっくりと移動していましたが、より速い動きや急な方向転換も可能だったと考えられています。触角は周囲を探るための感覚器として機能し、外肢に並ぶ葉状構造は呼吸のための鰓であった可能性が高く、また短時間の遊泳にも利用されたと推測されています。このような高い機動性と、消化管に付随する消化腺の存在から、テゴペルテの食性は捕食性または腐肉食性であったと考えられています。同時に、テゴペルテは知られているバージェス動物群の中でも最大級の、活動的な底生生物であったため、当時のカンブリア紀の生態系において、大型の頂点捕食者は外洋のアノマロカリスのような生物だけでなく、海底にも存在していた可能性を示唆する重要な例と言えます。

分類

テゴペルテは、現在では古生物のみが知られる節足動物の大きなグループであるArtiopoda類に属し、その中でも三葉形類（Trilobitomorpha）に含まれます。かつては三葉虫の仲間だと考えられた時期もありましたが、その後の研究でこの分類は否定されました。現在では、クアマイア（Kuamaia）やヘルメティア（Helmetia）などと共にConciliterga類（またはHelmetiida類とも呼ばれる）を形成すると考えられています。特に、サペリオン（Saperion）やシキオルディア（Sidneyia）との類縁関係が強く、多くの系統解析によって支持されています。これらの3属は、背面が1枚の甲羅に癒合しているという共通の特徴を持っていますが、テゴペルテはその甲羅に体節の溝がないことや、先頭部分に甲皮が突出しないといった特徴によって、サペリオンやシキオルディアと区別されます。

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