テスココ湖

メキシコ中央高原、メキシコ盆地。かつてこの地には、南北約65キロメートルに渡る巨大なテスココ湖が広がっていました。その形状は、ひょうたん型、あるいはタツノオトシゴ型と形容され、標高は2242メートルでした。しかし現在、その姿は大きく様変わりしています。かつての広大な湖面は埋め立てられ、2007年時点ではメキシコシティ北東部にわずか数平方キロメートルの湿地が残るのみとなっています。

13世紀頃、テスココ湖周辺は、いくつかの都市国家が栄えた場所でした。湖の北端には、スンパンゴ湖やシャルトカン湖といった湖沼があり、その周囲にはシャルトカンなどの都市が築かれていました。テスココ湖の東岸にはテスココ、西岸にはアスカポツァルコ（後のトラコパン）、湖の半島状の突端にはクルワカン、南端のソチミルコ湖やチャルコ湖の島々にはトラウアックやヒコといった都市が栄えていました。

アステカ文明の中心地、テノチティトランは、テスココ湖西岸の島に建設されました。湖上の島々や陸地とを繋ぐ堤道が張り巡らされ、複雑な水路網が都市を支えていました。この湖と、その周囲に築かれた都市国家たちの栄枯盛衰の歴史は、メキシコの歴史そのものを語る上で重要な要素です。

現在、テスココ湖のあった場所にはメキシコシティが建っています。しかし、湖の埋め立てによって地盤が脆弱になったため、1985年や2017年のメキシコ地震では甚大な被害を受けました。湖の埋め立ては、メキシコシティの発展に大きく貢献した一方、深刻な地盤沈下という問題を引き起こしたのです。

現在のテスココ湖跡地は、塩性植物が生い茂る湿地帯となっています。トゥレと呼ばれるSchoenoplectus acutusという植物が特徴的で、メキシコサンショウウオ、ラフネックアリゲータートカゲ、Girardinichthys viviparusなどの希少な動植物が生息しています。また、様々な鳥類も確認されており、豊かな生物多様性を有しています。

2018年には、この湿地帯の近郊に新たな国際空港の建設が計画されましたが、その後計画は中止されました。そして、2022年、この場所はラムサール条約登録地となり、国際的に重要な湿地として認められました。2023年には、テスココ湖生態公園として再生される予定です。この計画は、かつての自然を取り戻し、貴重な生態系を守るための重要な一歩です。

テスココ湖の変遷は、人間の活動が自然環境に与える影響を如実に示す事例と言えます。かつては広大な湖であったこの場所は、現代ではメキシコシティの一部となり、その歴史と自然の両面から、今後も人々の注目を集め続けるでしょう。テスココ湖の未来は、メキシコシティの未来、そしてメキシコの未来と深く結びついています。

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