メキシコサンショウウオ

メキシコサンショウオ：再生能力と文化が織りなす両生類

メキシコサンショウウオ（Ambystoma mexicanum）は、メキシコ原産の両生類です。愛らしい姿から「ウーパールーパー」の愛称で広く知られていますが、学術的にはメキシコサラマンダーとも呼ばれます。さらに、アステカ文明で「水中の犬」を意味する「アホロートル」という呼び名も持ちます。アホロートルは、幼形成熟するトラフサンショウウオ科の総称でもあるため、メキシコサンショウウオ以外の種を指す場合もある点に注意が必要です。

名前と由来

学名 mexicanum は「メキシコの」を意味します。一方、「アホロートル」は、アステカ神話の神、ショロトルに由来すると言われています。『ヌエバ・エスパーニャ概史』という絵文書によると、ショロトル神は世界の創造に関わる出来事から逃亡し、様々な姿に変化した後にアホロートルとなって捕らえられたとされています。この神話に基づき、アホロートルは再生能力を持つ、死を恐れる怪物として描かれるようになりました。スペイン語圏では、「水の怪物」を意味する monstruo de agua とも呼ばれていました。日本で用いられる「ウーパールーパー」は、日清食品のCMで用いられた際に商標登録された名称です。

分布と形態

メキシコサンショウウオは、メキシコシティ近郊のソチミルコ湖とその周辺にのみ生息しています。全長は10～25cmで、オスの方がメスよりも大型になります。特徴的なのは、幼生の形態を保ったまま性成熟する幼形成熟という現象です。通常は、水中で生活し、3対の外鰓を持ちます。背面は灰色で黒褐色の斑点があり、視覚情報に基づいて体色を変化させるカモフラージュ能力を持っています。飼育下では、アルビノやゴールデンなどの様々な色彩変異が作出されています。

生態と繁殖

メキシコサンショウウオは、水温が低くヨウ素が少ない環境を好み、そのため変態せずに幼生期を維持します。まれに、変態して成体になる個体もいます。食性は肉食で、軟体動物、ミミズ、昆虫などを捕食します。繁殖期は11月から翌1月頃で、水草などに200～1000個の卵を産みます。皮膚呼吸も可能です。寿命は15年程度とされています。

人間との関わりと保全状況

メキシコサンショウウオは、都市開発や水質汚染などによって生息数が激減しており、ワシントン条約附属書IIに掲載されています。かつてはメキシコ盆地内の他の湖にも生息していましたが、埋め立てによって生息地が失われました。1980年代の日本ではペットとして人気を博し、「ウーパールーパー」として広く知られるようになりました。アステカ族は、メキシコサンショウウオを食用や薬用として利用していました。

飼育と研究

メキシコサンショウウオは、飼育が容易で、発生学や内分泌学の実験動物として用いられています。飼育下では、チロキシンの投与や水位調整によって変態させることも可能です。しかし、水質悪化には弱いため、飼育には注意が必要です。

メキシコサンショウウオは、その高い再生能力で注目されています。四肢だけでなく、脊椎や心臓の一部まで再生できる驚異的な能力は、再生医療研究において大きな期待を集めています。また、2018年にはゲノム解析が完了し、ヒトゲノムの約10倍の長さを持つことが判明しました。

文化におけるメキシコサンショウウオ

2021年には、メキシコ50ペソ紙幣のデザインに採用され、国際銀行券協会の「Banknote of the Year 2021」を受賞するなど、メキシコ文化においても重要な存在となっています。

まとめ

メキシコサンショウウオは、その愛らしい見た目、高い再生能力、そしてアステカ神話とのつながりなど、多くの魅力を持つ両生類です。しかし、生息地の減少という大きな課題に直面しています。私たちは、この希少な生き物を保護し、その驚異的な能力を未来へと繋いでいく責任を負っています。今後の研究の発展と保全活動の強化が強く求められています。

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