テスピオス

テスピオス（Θέσπιος）

ギリシア神話における重要な人物の一人。ボイオーティア地方に位置する都市テスピアイの王としてその名を記されています。彼の出自については諸説あり、アテーナイの伝説的な王エレクテウスの子、あるいはその子孫にあたると伝えられています。テスピオスの妻はアルネオスの娘メガメーデーであり、彼らの間には合計50人もの娘が誕生したとされています。

ヘーラクレースとの関わり

テスピオスが神話の中で特に知られるのは、最大の英雄であるヘーラクレースとの複雑な関係によってです。

少年時代、ヘーラクレースは竪琴の師であるリノスを誤って殺害したため、父アムピトリュオーンによってキタイローン山の牧場で育てられました。ちょうどその頃、キタイローン山に棲む恐ろしい獅子が周辺の家畜を襲い、テスピオスやアムピトリュオーンの財産に被害を与えていました。18歳になったヘーラクレースは、この獅子を退治することを決意し、テスピオスの王宮に滞在することになります。

テスピオスは、将来大英雄となるであろうヘーラクレースを大いに歓迎しました。そして、テスピオスの50人の娘たちは皆、若きヘーラクレースに心を奪われていました。テスピオスは、ヘーラクレースがこの獅子退治に出かける前に、自らの娘たちに子を産ませたいと考えたようです。彼は毎晩一人ずつ娘をヘーラクレースの部屋へ送り込みました。ヘーラクレースは、まるで相手がいつも同じ一人の女性であるかのように思い込み、娘たち全員と交わりました。その結果、50人の娘たちは例外なくヘーラクレースの子を身ごもったと伝えられています。

ヘーラクレースはその後、キタイローンの獅子を見事に退治し、その毛皮を剥いで自らの外套としました。

後にヘーラクレースが一時的な狂気に陥り、自身の妻子（メガラーとその子供たち）を殺害してしまった際にも、テスピオスは彼の罪を清める儀式を行い、ヘーラクレースを助けました。

子孫の各地への移住

さらに時が経ち、ヘーラクレースがテスプローティアー地方のエピュラーを征服した後、彼はテスピオスへ使者を送ります。この時、ヘーラクレースはテスピオスの娘たちとの間に生まれた50人の自分の子供たち（テスピアーデスと呼ばれます）の処遇について指示を出しました。彼は、50人のうち7人を自身のもとへ、3人をテーバイへ送るように求めました。そして、残りの40人については、遠く離れたサルディニア島へ移住させ、そこに新しい都市を建設させるよう命じました。

歴史家シケリアのディオドロスによれば、このサルディニア島への移民は、ヘーラクレースが神託によって命じられた行動であったとされています。ヘーラクレースは、テスピオスの子孫たちの指導者として、彼の甥にあたるイオラーオスを選びました。

最終的な移住の割り振りには若干の異伝があります。ディオドロスは、50人のうち2人をテーバイに、7人をテスピアイに残し、残りの者たちがイオラーオスと共にサルディニア島へ渡ったと記しています。サルディニア島に到着した彼らは、現地の住民との戦争に勝利し、島内に土地を分け与えられました。

こうして、テスピオスの子孫たちは、それぞれテーバイ、テスピアイ、そしてサルディニア島という異なる土地で、後代に至るまで重要な地位を占めることになったと伝えられています。特にサルディニア島へ渡ったグループの一部は、さらに時を経てイタリア本土のクマエー付近に移住したとも言われています。

テスピオスは、自らの娘たちを介して大英雄ヘーラクレースと血縁を結び、その子孫を広く各地に根付かせた人物として、ギリシア神話の系譜において独特な役割を果たしています。

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