メガラー

メガラー：ギリシア神話における悲劇のヒロイン

メガラー（古希: Μεγάρα, Megarā）は、ギリシア神話に登場する女性で、その生涯は悲劇に彩られています。長母音を省略してメガラとも表記されます。彼女はテーバイの王クレオーンの娘であり、一説にはリュコスの娘とも伝えられています。英雄ヘーラクレースの最初の妻として、複数の子供をもうけますが、その運命は波乱に満ちたものでした。

ヘーラクレースとの結婚と子供たち

メガラーは、ヘーラクレースとの間にテーリマコス、クレオンティアデース、デーイコオーンという3人の息子をもうけたとされています。しかし、子供の数に関しては異説も存在し、2人や8人とする説もあります。後に、彼女はイオラーオスと結婚し、娘のレイペピレーをもうけています。レイペピレーは、ヘーラクレイダイの一人であるピューラースと結婚し、ヒッポテース、テーローを産んでいます。このように、メガラーは多くの子供たちに恵まれましたが、彼女の人生には悲劇が待ち受けていました。

ヘーラクレースの狂気と悲劇

メガラーに関する最も有名な逸話は、ヘーラクレースが狂気に陥り、彼女と子供たちを殺害するという悲劇です。この事件は、ヘーラクレースの12の難行の前か後かという点で、いくつかの異なる説が存在します。

アポロドーロスの記述

アポロドーロスによれば、ヘーラクレースはテーバイとオルコメノスとの戦争でオルコメノス軍を打ち破り、その功績によってクレオーン王からメガラーを妻として与えられました。しかし、その後、ヘーラクレースはヘーラーの嫉妬によって狂気に陥り、メガラーとの間に生まれた子供たちや、イーピクレースの子供たちを火に投げ込んで殺害してしまいます。この事件によって、ヘーラクレースはテーバイを去り、デルポイの神託によって12年間エウリュステウスに仕え、12の難行に挑むことになります。難行を終えた後、ヘーラクレースはメガラーを甥のイオラーオスに与え、自身はオイカリア―王エウリュトスの娘イオレーに求婚しました。しかし、エウリュトスとその息子たちは、メガラーの子供たちのようにイオレーとの間に生まれた子供を殺すのではないかと恐れて拒否します。これに怒ったヘーラクレースは、後にエウリュトスの一族を滅ぼし、イオレーを奪い去ります。

エウリーピデースの記述

エウリーピデースの悲劇『ヘーラクレース』では、この事件はヘーラクレースが12番目の難行を終えて冥界から帰還した後に起こったとされています。帰還したヘーラクレースは、テーバイの王権を簒奪したリュコスによってメガラーと子供たち、そして養父のアムピトリュオーンが殺されそうになっているのを知ります。彼女たちはゼウスの祭壇に逃げ込んで一時的に難を逃れるも、メガラーは年老いたアムピトリュオーンを頼るしかない状況に絶望し、屈辱的な死を遂げるよりは一思いに死にたいと願います。しかし、ヘーラクレースが帰還し、リュコスを殺してメガラーたちを救出するものの、ヘーラーが送った狂気に駆り立てられ、メガラーと子供たちを殺害してしまいます。

セネカの記述

セネカの悲劇『狂えるヘルクレース』では、簒奪者リュコスは王権を確固たるものにするためにメガラーを自分のものにしようとしますが、メガラーはヘーラクレースの妻としての誇りからこれを拒絶します。その後、ヘーラクレースは冥府から帰還しリュコスを殺害するものの、ユノー（ヘーラー）が送った狂気に取りつかれ、メガラーと子供たちを惨殺してしまいます。

ヒュギーヌスの記述

ヒュギーヌスによれば、メガラーとヘーラクレースの結婚は、テーバイ攻めの7将との戦争後とされています。二人の間には、テーリマコスとオピーテースの2人の子供が生まれました。冥府から戻ったヘーラクレースは簒奪者リュコスを殺害しますが、狂気に陥り、メガラーとその子供たちを殺してしまいます。正気に戻ったヘーラクレースは、罪の穢れを浄める方法を神託に求めたものの、アポローンが答えなかったため、デルポイから三脚台を奪い取ります。ゼウスはヘーラクレースに三脚台を返還させ、アポローンに無理やり神託を与えさせます。その結果、ヘーラクレースはリューディアの女王オムパレーに奴隷として仕えることになったとされています。

その他の伝承

メガラーとヘーラクレースの子供たちが殺された後、ヘーラクレースがテーバイに帰ってこようとしなかったため、メガラーはイーピクレースとリキュムニオスの捜索についていき、ティーリュンスでヘーラクレースと再会したという説もあります。また、オデュッセウスは冥府で多くの名高い女性たちと出会っており、その中にはアルクメーネーとメガラーもいたとされています。パウサニアスによると、メガラーの子供たちの墓はテーバイにあったと伝えられ、ピンダロスはメガラーとヘーラクレースの8人の子供たちがテーバイの人々によって祭祀されていた様子を描写しています。

まとめ

メガラーは、ギリシア神話における悲劇的なヒロインの一人です。英雄ヘーラクレースの妻として、また、多くの子供たちの母として生きた彼女の運命は、狂気に陥った夫による殺害という悲劇によって幕を閉じます。彼女の物語は、ギリシア悲劇の重要なテーマである「運命」や「狂気」を象徴する存在として、今日まで語り継がれています。

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