テディ・ボーイズ

テディ・ボーイズ：1950年代イギリスを席巻した若者文化

1950年代のイギリス、第二次世界大戦後の復興期に生まれた「テディ・ボーイズ (Teddy Boys)」は、エドワード7世時代の服装を身につけた若者たちのサブカルチャーです。アメリカ発祥のロックンロールやR&B音楽を背景に、独特のファッションと行動様式で社会に衝撃を与え、その歴史と文化は現代においても再評価されています。

歴史：戦後の反骨と社会不安

テディ・ボーイズの起源は、戦後のイギリス社会にあります。配給制度の影響が色濃く残る中、ロンドンの仕立て屋たちはエドワード7世時代のスタイルを現代風にアレンジした服飾を提案しました。しかし、当初は富裕層には不人気で、売れ残った服が郊外の労働者階級の若者たちに受け入れられることになります。

1950年代初頭には「コッシュ・ボーイ」と呼ばれていた彼らは、やがて新聞報道によって「テディ・ボーイズ」と命名されます。この名称は、エドワード7世(愛称「テディ」)時代の服装を反映したものですが、「エドワード朝のイングランドの国防義勇軍」を指す解釈もあるなど、多様な解釈が存在します。

アメリカ映画『暴力教室』の上映は、テディ・ボーイズ文化に大きな転換をもたらしました。映画に刺激された若者たちは暴動を起こし、社会への反発を露わにします。こうした反社会的な側面がテディ・ボーイズのイメージを決定づける要因の一つとなり、やがて彼らはギャングを形成し、移民に対する暴力事件にも関与するなど、社会問題化していきます。特に1958年のノッティングヒル人種暴動への関与は、彼らの負のイメージを決定づけました。

スタイル：エドワード調とアメリカンスタイルの融合

テディ・ボーイズのファッションは、エドワード7世時代のスタイルをベースに、アメリカンスタイルの要素を取り入れています。特徴的なのは、丈の長いジャケット、テーパードトラウザー、そして高価なベストです。黒を基調とした服装に、鮮やかな色のシャツやネクタイを合わせるなど、独自の個性を発揮していました。

ヘアスタイルも特徴的で、グリースで固めたポマードヘアや「ダックテイル」など、映画スターの影響を受けたヘアスタイルが流行しました。靴は磨かれたオックスフォードシューズやブローグシューズを好んで着用していました。

一方、女性版である「テディ・ガールズ」は、ドレープジャケットやペンシルスカート、そして三つ編みの髪型などが特徴的でした。戦後の禁欲的な社会への反発として、派手な服装を選んだ背景には、貧困や社会的不平等への抵抗が潜んでいます。

音楽とダンス：ロックンロールとの密接な関係

テディ・ボーイズは、ロックンロール、R&B、ジャンプブルース、ジャズ、スキッフルなど、幅広い音楽を愛好しました。「The Cleep」という曲は大ヒットし、彼らに「クリーパー」というニックネームをもたらしました。エルビス・プレスリー、ビル・ヘイリー、エディ・コクランなど、アメリカンロックンロールの影響を大きく受けつつ、イギリス独自の音楽シーンも形成していきました。クリフ・リチャードやトミー・スティールといったイギリスのロックンロール歌手も、テディ・ボーイズの文化と深く関わっていました。

復活と大衆文化への影響

ビートルズ初期のメンバー、ジョージ・ハリスンとジョン・レノンはテディ・ボーイズのスタイルに影響を受けていました。1970年代にはグラムロックブームの中で、テディ・ボーイズのファッションが再び注目され、「Let it Rock」などの店が中心となり、新たな解釈を加えたテディ・ボーイズスタイルが流行しました。

1980年代後半から1990年代初頭には、「ザ・エドワーディアン・ドレイプ・ソサイエティ」というグループが結成され、本来のテディ・ボーイズスタイルの復興を目指しました。

テディ・ボーイズは、映画、音楽、小説など、様々な大衆文化作品にも登場し、その影響は現代まで続いています。アークティック・モンキーズのシングル「テディ・ピッカー」や、アンソニー・バージェスの小説『時計仕掛けのオレンジ』など、現代の文化作品においてもその姿を見ることができます。

テディ・ボーイズは、単なるファッションや音楽の流行にとどまらず、戦後のイギリス社会における若者たちの反骨精神と、社会への反抗を象徴する文化現象として、重要な意味を持っています。彼らの歴史を理解することは、戦後のイギリス社会、そして若者文化の歴史を理解することに繋がります。

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