テムズハウス

テムズハウス：MI5本部としての歴史と役割

テムズハウスは、イギリスの首都ロンドン、ミルバンク地区にそびえ立つ印象的なオフィスビルです。テムズ川の北岸、ランベス橋に隣接するこの建物は、その歴史と現在の役割から、英国の安全保障において重要な位置を占めています。

建造からICI時代へ

1928年のテムズ川の大洪水による被害を受けた地域復興の一環として、1929年から1930年にかけて建設されました。設計を手掛けたのは、著名な建築家サー・フランク・ベインズ。ベインズは、英国式新古典主義建築の伝統を踏襲し、近隣のランベス橋のデザインとも調和した、洗練された建物を完成させました。正面上部には、聖ゲオルギウスと女神ブリタニアをモチーフにした彫刻が飾られ、建物の威容をさらに際立たせています。当初は、インターナショナルニッケル株式会社のロンドン本部など、多様なテナントが入居する多目的ビルとして利用されていましたが、後にインペリアル・ケミカル・インダストリーズ（ICI）のオフィスとして長く使用されました。

MI5本部への転身

1980年代後半、老朽化した旧本部からの移転を検討していたMI5は、新たな拠点を探していました。幾つかの候補地が検討されましたが、セキュリティ上の懸念から却下。テムズハウスは、省庁が移転したことにより空室が生じており、MI5の本部として最適であると判断されました。大規模な改修工事が行われ、現代的なセキュリティシステムが導入され、1994年11月30日、当時の首相ジョン・メージャーによって正式にMI5本部として開所されました。改修工事では、建物の特徴であるアーチ型の構造が強調され、内部には自動モノレールシステムが設置されるなど、機能性とセキュリティの両面で高度な設計が施されています。

他の政府機関との共用と近年

MI5本部として使用される一方で、テムズハウスは長らく北アイルランドオフィス（NIO）のロンドン本部も併設していました。しかし、2013年にNIOは他の政府機関と共にホースガーズ街に移転し、テムズハウスはMI5の専有となりました。2007年には、テムズハウスへの不法侵入を特殊犯罪とする法律（Serious Organised Crime and Police Act 2005）が施行され、建物のセキュリティはさらに強化されました。

大衆文化における存在感

テムズハウスは、その象徴的な外観から、多くの映画やテレビドラマの撮影にも利用されています。特に、BBCのスパイ・ドラマ『MI-5 英国機密諜報部』では、シリーズを通して重要な撮影場所として登場し、視聴者にも広く知られるようになりました。また、『秘密情報部トーチウッド』シリーズ3でも、地球外生命体が地球に到来する施設として、その威容が印象的に描かれています。

まとめ

テムズハウスは、単なるオフィスビルではなく、英国の歴史と安全保障を象徴する重要な場所です。その歴史、建築、そして現在も続くMI5本部としての役割は、英国の安全保障の歴史を語る上で欠かせない存在であり続けています。その存在感は、ドラマや映画など大衆文化にも影響を与え、英国社会に深く根付いていると言えるでしょう。

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