テリー・ビッスン

テリー・ビッスン

アメリカのSF・ファンタジー作家、テリー・ビッスン（Terry Bisson）は、1942年2月12日に生まれ、2024年1月10日にこの世を去りました。個性豊かな作品で知られ、特にその短い物語は数々の文学賞に輝いています。

ビッスンはケンタッキー州オーエンズボロで育ちました。彼の作品には、出身地であるアメリカ南部に根ざした独特のユーモアと、真偽の境目が曖昧な誇張話である「トールテール」の影響が強く見られます。その語りのスタイルや風刺的な視点から、彼はしばしば同じくユニークな作風を持つ作家、R.A.ラファティの文学的な後継者とも評されました。物語はしばしば予期せぬ展開を見せ、読者を驚かせながらも、深い洞察や人間味あふれるタッチで引きつけます。

SF作家として、ビッスンは科学、特に宇宙開発に対する強い関心を持っていました。熱心なNASAのファンであり、その思いは火星を舞台にした作品群に結実しています。彼の描く宇宙や未来は、科学的な考証に基づきつつも、時にシュールとも言える独特の世界観が展開されます。

また、彼は小説創作だけでなく、多くの著名な映画作品のノベライゼーション（小説版）を手掛けたことでも知られています。これにより、SFやファンタジーの読者だけでなく、幅広い層にその名を知られることとなりました。

ビッスンの作家人生において、短編作品は特に重要な位置を占めています。彼の代表作であり、多くの文学賞を受賞したのが短編集『熊が火を発見する』（原題: Bears Discover Fire、1990年刊行）に収録された同名の表題作です。この短編は、人間と熊という異なる存在の交流を通じて、文明や自然、そして時代の移り変わりといったテーマをユーモラスかつ哲学的に描いた作品として絶賛されました。この功績により、1990年には権威あるネビュラ賞 短編小説部門を受賞。さらに翌1991年には、SF界で最も栄誉ある賞とされるヒューゴー賞 短編小説部門、SF専門誌の読者投票によって選ばれるローカス賞 短編小説部門、そして若手SF作家に贈られるシオドア・スタージョン記念賞と、主要なSF文学賞を立て続けに受賞するという快挙を成し遂げました。これは、彼の短編作家としての卓越した才能を広く証明する出来事でした。

さらに、2000年には、アメリカ現代史における悲劇的な事件の一つであるオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件を題材にした短編「マックたち」（原題: Macs）で、再びネビュラ賞 短編小説部門とローカス賞 短編小説部門を受賞しています。この作品は、困難なテーマを扱いながらも、彼の持ち味である鋭い視点と独特の語り口をもって、読者に強い印象を与えました。

ビッスンの著作は多岐にわたります。主な作品には、以下のものがあります。

『世界の果てまで何マイル』（Talking Man, 1986年）
『赤い惑星への航海』（Voyage to the Red Planet, 1990年）

ノベライゼーション作品としては、人気映画を小説化したものが多数あります。

『ＪＭ』（Johnny Mnemonic, 1995年）
『バーチュオシティ』（Virtuosity, 1996年）※日本版ではテリー・ビッソン表記
『フィフス・エレメント』（The Fifth Element, 1997年）
『シックス・デイ』（The 6th Day, 2000年）

また、日本独自に編纂された短編集も刊行されています。

『ふたりジャネット』（2004年） - 奇想コレクションの一冊として
『平ら山を越えて』（2010年） - 奇想コレクションの一冊として

テリー・ビッスンは、その独特なユーモアと語り口、そしてSFというジャンルに縛られない自由な発想で、多くの読者を魅了しました。彼の作品は、SFファンのみならず、文学を愛する人々にも広く読まれ、記憶されることでしょう。

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