テルモトガ門

テルモトガ門（Thermotogae）

テルモトガ門（Thermotogae）は、高温環境に適応した独特な細菌群を含む門です。「サーモトーガ門」と表記されることもあります。これらの細菌は一般的に桿菌状の形態を示し、グラム染色では陰性を示すとされています。地球上の極限環境、特に深海の熱水噴出孔や地下の油田近傍といった高温かつ嫌気的な場所に主に生息しています。

この門の名前は、その特徴的な形態と性質に由来しています。「テルモ-（Thermo-）」はギリシア語で「熱い」を意味し、これは彼らの好熱性を表しています。そして「トガ（toga）」とは、桿菌の細胞の両端あるいは片側に見られる鞘状の構造を指し、これが古代ローマ市民が着用した外衣であるトガに例えられたことから名付けられました。この鞘状構造は、一般的なグラム陰性細菌の外膜に相当する構造と見なされることが多いですが、その組成や機能には独自の点があり、必ずしも同一視できないという見解も存在します。また、細胞壁がリゾチームによって分解されやすい点も、多くのグラム陰性細菌とは異なる性質として挙げられます。多くの種は運動性を持つための鞭毛を備えています。

テルモトガ門に属する細菌のほとんどは、厳密な嫌気条件下で生育し、外部から有機物を取り込んでエネルギーを得る従属栄養生物であり、その多くは有機物を発酵させることで増殖します。増殖が可能な温度範囲は広く、およそ40°Cから80°C程度の高温域を至適温度とする種が多く含まれます。さらに、多くの種が代謝の最終電子受容体として硫黄化合物を利用することが知られています。

2018年の時点では、この門には12の属と51の種が記載されています。テルモトガ門は、系統解析によって他の多くの細菌門から初期に分岐したグループであると考えられており、生命の進化の歴史を理解する上で重要な位置を占めています。

この門の中で最もよく研究され、広く知られている代表的な種にThermotoga maritimaがあります。この種は非常に高い好熱性を示し、80°Cという高温を至適増殖温度とし、最高では90°Cでも生育が可能です。これは既知の細菌の中でもアクウィフェクス門（Aquifex）に次いで高い好熱性であり、極限環境微生物学の研究対象として非常に重要です。T. maritimaは、同じく高い好熱性を持つアクウィフェクス門の細菌に比べて実験室内での培養が比較的容易であるため、様々な研究、特に高温で機能する酵素（耐熱性酵素）の探索や、生命の起源に近いとされる初期の生命体に関する研究に広く用いられています。

下位分類

テルモトガ門の下位分類は、主に以下のように分けられています。

テルモトガ綱 (Class Thermotogae)
テルモトガ目 (Order Thermotogales)
テルモトガ科 (Family Thermotogaceae)
Thermotoga属
Fervidobacterium属
Thermosipho属
コスモトガ目 (Order Kosmotogales)
コスモトガ科 (Family Kosmotogaceae)
Kosmotoga属
Mesotoga属
メソアキディトガ目 (Order Mesoaciditogales)
メソアキディトガ科 (Family Mesoaciditogaceae)
Athalassotoga属
Mesoaciditoga属
ペトロトガ目 (Order Petrotogales)
ペトロトガ科 (Family Petrotogaceae)
Defluviitoga属
Geotoga属
Marinitoga属
Oceanotoga属
Petrotoga*属

これらの分類は、分子系統学的な解析や形態的、生理的特徴に基づいて定義されています。テルモトガ門の研究は、地球上の生命の多様性や進化の初期段階を理解する上で、今後も重要な知見をもたらすと期待されています。

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