テレビゲームソフトウェア流通協会

テレビゲームソフトウェア流通協会（ARTS）の歩み：中古ゲームソフトをめぐる攻防

テレビゲームソフトウェア流通協会（ARTS）は、ゲームソフト販売店によって構成される任意団体です。東京都千代田区に本部事務局を置き、略称をARTSとして活動していました。ARTSは、ゲームソフト販売における様々な問題、特に中古ゲームソフトの取り扱いに関する激しい論争の中心に位置する団体でした。

設立までの経緯：ジャパンテレビゲームチェーン協会（JAG）の崩壊とARTSの誕生

ARTS設立以前には、ジャパンテレビゲームチェーン協会（JAG）が存在していました。しかし、JAGはフランチャイズチェーン単位の組織だったのに対し、ARTSは個々の販売店が加盟する組織という違いがありました。

1994年、ソニー・コンピュータエンタテインメント（現ソニー・インタラクティブエンタテインメント）がプレイステーション（PS）を発売したことが、大きな転換点となりました。ソニーはPSソフトに関して「再販売価格維持」「中古品売買禁止」「在庫転売禁止」といった厳しい条件を課しました。このことが、JAG加盟店間で路線対立を引き起こし、JAGは最終的に空中分解することになります。

この対立の中、ソニーの独占禁止法違反容疑が1996年5月に浮上したことも大きな影響を与えました。PSソフトの利益率の低さから、中古ソフト販売を禁止されると経営が成り立たないと主張する勢力と、PSが主流になれば新品の利益率が下がるから辛抱すべきだと主張する勢力が対立しました。

ARTS結成の直接的なきっかけは、ソニーを支援するカプコン、コナミ、光栄が仙台地方裁判所に起こした仮処分申請でした。この申請は、中古ゲームソフト売買禁止を求めるものでしたが、多くの販売店からの反発を受け、最終的には取り下げられました。しかし、この事件は販売店側に新たな団体の結成を強く促すことになりました。そして、1996年12月11日、ARTSが正式に設立され、前JAG理事長の新谷雄二氏が代表理事に就任しました。

中古ゲームソフト撲滅キャンペーンとメーカーとの対立

1997年に入ると、ソニーをはじめとするゲームメーカー各社からの圧力が強まりました。ARTS加盟店への一方的な契約破棄や納品カットが行われ、多くの販売店がARTSを離脱しました。しかし、大手FC「カメレオンクラブ」を展開する上昇がARTSに合流するなど、状況は複雑に変化していきました。

1997年9月、ACCS、CESA、JPSA（日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会）は、ゲームソフトの中古販売が著作権法違反であると主張しました。これに対し、ARTSは家庭用ゲームソフトには頒布権は存在しないと反論しました。この対立は、1998年1月に「違法中古ゲームソフト撲滅キャンペーン」として表面化し、ARTSとメーカー側の対立は激化しました。

一部の販売店は、テレビゲーム専門店協会（ACES）を結成し、ARTSとは距離を置く姿勢を示しました。

裁判：6年に及ぶ法廷闘争

1998年、メーカー側は複数の販売店を著作権法違反で提訴しました。ARTS側は、メーカー側の主張を全面的に否定し、反訴も提起しました。東京地裁と大阪地裁では、異なる判決が出され、控訴審、上告審へと争いが進展しました。

公正取引委員会も、セガの独禁法違反容疑について調査を行い、メーカー側の行為に問題点があると指摘しました。最終的に、2002年4月、最高裁判所はメーカー側の上告を棄却し、「中古ゲームソフトの売買は合法」という判決を下しました。6年に及ぶ法廷闘争は、ARTS側の勝利で幕を閉じました。

最高裁判決後：日本テレビゲーム商業組合への統合

最高裁判決の後、ARTSは、2002年2月に設立された日本テレビゲーム商業組合（Games Japan）にその役割を譲り、事実上活動を終了しました。その後は、日本テレビゲーム商業組合の外部監査機能を担う形で存続しています。

ARTSの活動は、ゲーム業界における著作権や流通に関する議論に大きな影響を与え、日本のゲーム市場の歴史において重要な一頁を刻みました。この出来事は、デジタルコンテンツの著作権や流通に関する現代的な課題を考える上でも、重要な事例として認識されています。

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