テレンス・ウィルモット・ハチスン

テレンス・ウィルモット・ハチスン（Terence Wilmot Hutchison）は、1912年4月13日に生まれ、2007年10月6日に亡くなった、イギリスを代表する経済学者の一人です。経済学の方法論や思想史に関する独創的な研究で国際的に高い評価を得ました。

ハチスンはイングランド南部のドーセット州ボーンマスに生まれました。1931年にケンブリッジ大学のピーターハウスに入学し、当初は西洋古典学を学びましたが、後に経済学へと専攻を変更しました。1934年には、経済学の学士号を最優秀の成績で取得しています。卒業後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（LSE）で1年間学び、その後のキャリアの基盤を築きました。

1935年、ドイツのボン大学で経済学の講師となりましたが、この転身には哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインへの関心が影響したと言われています。ボンにはおよそ3年間滞在し、ドイツ語を習得しながらドイツの経済学を深く研究しました。この間、ドイツ国籍の女性ロレッタ・ハックと結婚しました。夫妻はその後、中東のバグダードへ渡り、ハチスンは教育大学で教鞭をとりました。さらにその後、インドのボンベイ（現在のムンバイ）へと移住しました。

第二次世界大戦が始まると、ハチスンはイギリス陸軍に召集されました。情報将校としてエジプトにおける北西部戦線に従軍した後、イギリス領インド帝国のデリーに駐在しました。

終戦後の1946年からは、再びイギリス国内で大学でのキャリアを再開します。はじめにハル大学で1年間教鞭をとった後、LSEへと移り、経済学史の研究に一層力を注ぎました。1956年には、バーミンガム大学のミツイ経済学教授に任命され、1978年に退職するまで20年以上にわたりこの要職を務めました。退職後も2年間は経済学史の講義を続けるなど、教育への情熱を持ち続けました。

ハチスンの学術的な業績は多岐にわたりますが、特に重要なのは経済学方法論に関する研究です。1938年に発表した初期の著作『The Significance and Basic Postulates of Economic Theory』は、その後の彼の経済学方法論研究における地位を確立する上で決定的な役割を果たしました。この著作は今日でも頻繁に参照される古典となっています。また、経済思想史の分野でも重要な貢献をしました。特に、1988年に出版された『Before Adam Smith: the emergence of political economy, 1662-1776』は、アダム・スミスの『国富論』以前、18世紀の経済学的著作を体系的に考察した英語による最初の文献であり、高く評価されています。

その他の主要な著作としては、『A Review of Economic Doctrines 1870-1929』（1953年）、『'Positive' Economics and Policy Objectives』（1964年）、『On revolutions and progress in economic knowledge』（1978年）、『On the Methodology of Economics and the Formalist Revolution』（2000年）などがあり、いくつかは日本語にも翻訳されています。

私生活では、最初の妻ロレッタに1981年に先立たれましたが、1983年にクリスティン・ドナルドソンと再婚しました。しかし、クリスティンにも2003年に先立たれています。ハチスンには3人の子どもがいました。

テレンス・ウィルモット・ハチスンは、経済学の方法論的な厳密性を追求し、また経済思想の歴史的発展を深く掘り下げた研究を通じて、後世の経済学者に大きな影響を与え続けた人物です。

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